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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 珈琲を飲みながらスティーブンさんは言う。
「それで、退院したらまた元の生活に戻るつもりかい?」

 …………。

「そ、そうですね。クラウスさんが色々準備して下さってるみたいだし」
 退院パーティーとか、私の魔術のお師匠さんを呼ぶとか、色々。

「じゃあ本格的に水系術士の方向に行くのかい?」
「才能があるんなら、それを伸ばした方がいいって言われましたし」
「ふうん。なら僕の系統の近縁か――ああ、そんな顔しないでくれよ。別に血凍道に勧誘してるわけじゃないんだから」

 自分の血を使って攻撃とか、そんな痛そうな技、勧誘されてもゴメンだ!
 というか顔に出てました? 失礼。

「じゃ、今度、うちに遊びに来るかい?」

「は?」

「僕は氷系統だからね。ライブラでもカバーしてない、マイナーな水系魔術の本も持っている。関連書物は一通り網羅しているつもりだ」
「すみません。お気持ちは嬉しいのですが、わたくし平均体温36.5度以上の方ではないと体質が合わなくて」
「こらこらこら」
 苦笑するスティーブンさん。

「どういう断り方だよ。そういうつもりじゃないって分かってるだろ?
 それに氷を扱うからって体温が低いわけじゃないぜ? ほら」
 手を握ってみる。クラウスさんほどじゃないけど、大きいなあ。
 何となく触っていると、

「水は体表面にも存在し、あらゆる場所を通して体内につながっている。脳にも、ね」
 スティーブンさんが静かに言う。
「え?」

「自分の記憶をいじることが出来るのなら、他人の記憶も。
 本当は可能なんじゃないかい?」
「まさか、記憶のシステムは複雑なんですよ?」
「複雑だが、いじることは簡単だ。
 そもそも形の存在しない、実にあいまいな『記憶』を正確に保持するのは難しい作業なんだ」

 私は感情を表に出さないよう、ふんふんと感心したように聞いた。

「誘導された自白、虚偽記憶裁判――魔術を使わない一般人でも、偽の記憶を捏造することは実に簡単。
 これは研究でも実証されていることだ」

「なるほど。勉強になりますね」

「まして魔術でピンポイントに狙い撃ちされたら――僕やクラウスたちはともかく、一般的な術士程度じゃ、とても太刀打ちは出来ないだろうね」

 ……まあ、何が言いたいかはちょっと分かる。

 ちょっとだけ。

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