第5章 終局
そして寝ようとしたが。
「カイナ」
ギシッと私の両脇が、クラウスさんの手で沈み込む。
「…………」
私、冷たい目で恋人を見上げる。
クラウスさんはネクタイを外しながら、
「安心したまえ。君に負担がかからないよう、最大限に配慮する」
元の色に戻った私の髪をかき上げ、口づけるケダモノ。
しかし。こと夜の事情に関して、この紳士の『配慮する』ほど信用ならないものはない。
「クラウスさん。私、明日には病院に戻るんですが」
手で胸を押すが、その手をつかまれ、
「そうだな、だから正式な退院まで、君とのふれあいを覚えていたい」
「いやもう何日もかからないし、何、自分の都合のいい方向に――ん……」
キスをされ、押し倒され以下略。
とりあえず三回目までは、頑張ってつきあった。
…………
翌日、私はできる限り無事な様子を装った。
が、迎えに来たギルベルトさん。私を見、察したらしい。
コホンと咳払いし、
「お父上に教えられたことをお忘れでございますか、坊ちゃま。
女性には礼儀を持って接し、そのか弱さを気遣うことは男子たる者の――」
「反省している。だがカイナの要請に断り切れず――」
執事さんとそういう話をせんで下さい!!
あと『私の方から誘った』みたいな詭弁を、いい加減に止めんか!
…………
…………
「というか、誰も疑問に思わないんですかねえ」
「何が?」
お見舞いにいらしたスティーブンさんに言う。
今日は彼一人。クラウスさんの切り花を持っていらした。
「私みたいのが、クラウスさんとくっついて」
危機は回避されたとはいえ、散々騒ぎを起こした挙げ句、世界を崩壊させる寸前まで行ったのに。
スティーブンさんはしばし考え、
「君、クラウスが間違った判断をすると思うかい?」
「しょっちゅうですが、概ね賢明で的確な判断をされる御方かと」
スティーブンさんは苦笑した。
「そういうことだよ。ボスが選んだ人だから、間違いはない。偏見や批判に、軽々しく左右される男ではない。
そう皆思っている。だから君は何も心配しなくていい」
良いことを言ってるように聞こえるが要約すると、
『どうせ何を言ってもムダだから、スルーしてる』
なんだが。
つか、この人単体で見舞いに来られると、間が持たないなあ。