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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局



 辺りは宵の口になっていた。

「ここ、あなたの家? ここでいいの?」

 少女は聞いちゃいない。ただ爆発するような歓喜の顔になっていた。
 ポロポロ涙を流している。

 クマさんが頭を下げると、少女は礼も言わず駆け下りた。
 あれ? 乗るときは手伝わなきゃいけないほどボロボロだったのに。

 でも不思議なことに、少女が一歩走るごとに、傷が、服が、きれいになっていく。

 玄関の扉を開けるとき、その子はどこにでもいそうな、明るく健康な少女になっていた。

 学校のカバンを持ち制服のスカートを揺らし、勢い良く家の玄関を開けた。


『ただいま!!』
『おかえり、カイナ。今日は遅かったじゃない』
『帰り道で変な光に包まれたけど、からくも脱出いたしました!』
『え、ついに我が娘が中二病に!?』
『いやマジですって、母上!』

 笑い声が聞こえる。

 私には日本語が分からない。だから理解出来なかった。

 理解出来なかった。理解出来なかった。理解出来なかった!


『今日のご飯、何!?』
『LINEのリクのやつ、作っといたよ』
『よっしゃあー!!』
『なんて口の利き方してんの。手、洗って』
『はーい!』

 玄関のドアが閉まる。世界を分断するようにバタンと。

 いや実際に分断された。その家がみるみる遠くなったのだ。
 私は落ちていた。

 家の中にいた女の人の声を、どうしてももう一度だけ聞きたいと思った。

 家は遠ざかっていく。
 落ちていく。もう街も何も見えない。

 私は真っ暗な中にいた。

 そして暗闇の底に落っこちた。
 呆然としていたら、雨が降ってきた。


「うわああああーんっ!!」


 どしゃ降りの雨の中、今度は私がボロ泣きしていた。
 でも一人じゃなかった。

 ずぶ濡れのクマさんが、そっと私に寄り添っていたのだ。

 私はクマさんにしがみつき泣きじゃくった。

 ずっと、ずっと泣いていた。

 …………

 …………

 意識が浮上する。

 でも何も見えない。聞こえない。身体を動かせない。

 ぬくもりは感じる。誰かが私の手を握っている。

 私の手をさすってる。

 大きな手だ。暖かい。

 私はその手を、ほんの少しだけそっと、そっと握り返した。

『――――!!』

 ……?

 空気が震えた。

 まるで誰かが叫んだみたいに。

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