第5章 終局
「困ったなあ……」
ずっとこんな暗闇の中にいたんじゃダメだ。
この子を家に連れて帰らないと。
ぐずぐず泣いてる子を、よしよしとあやし、周囲を見る。
「あ!」
すると暗闇の向こうから光が差した。
赤毛の巨大なクマさんが来た。
クマさんが光を連れてきた。あの禍々しい光ではない、花の香りのする春の光だ。
あたりは光の霧に包まれ、私はホッとした。
クマさんはいつもの優しい目で、私たちを見ていた。
「いいところに! 鮭を寄こせ――じゃなかった、この子がちょっと……」
腕の中のその子を見せるようにすると、
優しい目のクマさん、ふんふんと、その子の匂いを嗅ぐ。
『バケモノ! ヨルナ!!』
その子は超敵意むき出しだった。
日本語で怒鳴り散らし、クマを叩いたり蹴ったりした。
でもダメージゼロ。相手は地上最強のクマとも言われるアラスカヒグマだ。
むしろのクマの拳の一撃で、君の頭が簡単に吹っ飛ぶ。いやマジで。
「ん?」
風向きが変わった。
少女がクマにすがって泣き出した。わんわん泣いている。
クマさんは黙って汚い少女を抱きしめ――はたからは食われる五秒前にしか見えないが――、ふんふんと髪の匂いを嗅ぐ。
ずっとずっと、その子はクマにすがって泣いていた。
「その子、おうちに連れていった方がいいと思うんですよね」
私が言うと、クマはうなずいた。
そして身をかがめ、私たちに乗るように促した。
童話みたいだなあ! 私は喜んで乗り、その子も渋々、私の後ろに――乗ろうとしたんだけど、全身傷だらけで身体がまともに動けないみたい。
私が手伝って、その子を私の前に乗せてあげた。
…………
クマの背に乗って、光の霧の中をただ歩く。
これまた、どれくらい歩いただろうか。
気がつくと周囲はどこかの街だった。あれ、異界人がいない。うわ、皆、髪が黒い!
あ、ここ。アジアか。漢字がいっぱい見えるけど中国か? いや違う。
『!!』
ボロボロ少女がクマさんの上で顔を上げた。
そこは明かりのついた平凡な家の前だった。
表札っぽいのはあるけど、なんて書いてるのか、もう読めなかった。