第5章 終局
とにかくその少女は傷だらけだった。
顔は腫れ、殴られた跡だらけ。鼻はつぶれ、右目は開かない。
片腕は脱臼、足の裏は傷だらけで歩いたら絶叫必須なレベル。多分、膝の皿も割れてる。
服はボロく、ほぼ半裸。見える肌のあちこちに手術痕。いい加減な縫合と乱暴な抜糸の跡。
生乾きの傷はむき出しで手当てもされず、腿には月のものではない血が伝っていた。
放置してたら永遠に泣いてそうだったので、仕方なく抱きしめた。
すると、
『ナンデ!? ナンデ!? ナンデ!?』
え? 何で私に怒りをぶつけてくるの? 八つ当たり?
それにしても、どこかで聞いたような声だ。
そして思い出す。
あの光の渦の声だ!
『トオレル』と言って、私を苦しめていた光だ。
あれって神性存在の声じゃなかったの?
こんなボロい女の子だったの?
え? じゃあもしかして、この子が神性存在?
いや絶対に違うな。何か弱っちいし、みっともない。
今は光も無く、弱々しい。
その子は私を罵りつつ、身体を叩いてくる。
まあさっき言ったとおり脱臼で片手しか使えないし、相当弱ってるから痛くもかゆくもないが。
『ナンデ、ドウシテ!?』
「あと、それってもしかして日本語なの? ごめんごめん。私、日本語ほとんど忘れちゃってさあ」
お忘れかもしれんが、ヘルサレムズ・ロットは英語圏でございます! 私は度重なる記憶障害で、日本に関する知識がほとんど消えかけなのだ。
だが英語は通じないのか、とにかくその子は泣きまくる。
私はよしよし、とその子を撫で、通じないと知りつつ言った。
「だってさあ、仕方ないじゃない。クラウスさんがいない世界とか考えられないし」
……何で私、こんなことを言ってるんだろう。
あ。ニュアンスは通じたのかな。
少女がまたキレて、私を超罵ってくる。『ウラギリモノ』という単語が聞こえるが。
私はよしよし、と少女を撫でる。
彼女はまだ私にキレてたが、私はギュッとして、『仕方ない』とだけ繰り返した。
そして、どのくらい経っただろうか。
その子はだんだん大人しくなった。大人しくはなったが、まだ泣いている。
とても静かに泣き続けている『クヤシイ』と嗚咽し、ポロポロ涙を流している。
「困ったなあ……」