第5章 終局
それにしても世界の均衡を守ろうとしている人が、その世界の住人に舌を出されるとは。
哀れ、クラウスさん!
「うわああ! 赤いのがこっちに来たぞ!!」
あ。私を撃ったとか、配信しようぜーみたいなこと言った人が、クラウスさんの攻撃で即死してる。
クラウスさんは紳士だが、世界の均衡を守るためなら普通に敵を殺したりします。
どう見ても八つ当たりな理由で、人を病院送りとか割とあるらしいし。ぶるぶる。
そしてクラウスさんのおかげで野次馬共も逃げていった。
もちろん警官隊もとうに退避。
ガレキの地は、私たちだけになった。
終わろうとする世界の中心に、静かな風が吹いている。
クラウスさんは私の止血を試みるが、とても間に合わない。
というか最初から間に合ってない。銃弾が大動脈を貫通したし。むしろ我ながら、よく意識があるもんだ。
「カイナ! しっかりしたまえ! 私の声は聞こえるか!?」
あー、うるさいっす。聞こえてます、聞こえてるから。
「すまない……どうか、許して欲しい! 私の……私たちの罪を!!」
「クラ……ウスさん……」
ちゃんとしゃべったつもりだったが、出たのはか細いかすれ声だった。
「カイナ!」
血にまみれた私の手を取り、叫ぶクラウスさん。
「わたし……を……密封……し、て……」
密封。クラウスさんによる、完全な封印のことだ。
私はあと何十秒ももたない。
私の奥底で光の渦は歓喜を増し、外に放たれる寸前。
世界が終わってしまう。
もうクラウスさんが直接私を密封するしかないのだ。
いくらきれいごとを言っても、私が大事と叫ぼうとも、もう他に道はないだろう。
さすがのクラウスさんでも。
「密封はしない」
クラウスさんはキッパリと言う。
「だから……そんなこと、言ってる場合、じゃ……ゴホっ!」
しかしクラウスさんは立ち上がる。
「時限制の封印で、君の時間を一時的に凍結する」
は?
「君は眠っていたまえ。その後に我々は『境界点』という場所に向かう。そこの顔役に、君を救う知恵を請う」
「…………」
「ギルベルトとK・Kがもうすぐ到着する。待っていたまえ」
えと、私が失敗したら失敗したで、ちゃんと策があったらしい。