第5章 終局
「カイナ!!」
パシッと手を握られ、私はハッとする。
今まさに放たれようとした光が収束した。
ほんのわずかに意識が戻り、私が命をつないだため、死を契機に発動するはずだった『召還門』が寸前で閉じられたのだ。
といっても、ほんの数分の時間稼ぎだろうが。
あと『実はまだライフを使い切ってませんでした☆』オチではなかったか。
ホントに今持ってる命で最後らしい。
「すぐに止血を!!」
いや手遅れですって、クラウスさん。
血だまりの中、地面に倒れるカイナさん。
身体は人外な感じの、禍々しい光を放ち始めている。
そのわずか数メートル横に銃弾が放たれた。
「お! 外れた!」
「バカ、下手くそ。次は俺だ!」
下品な笑い声。
「……死に瀕した者を娯楽の道具とする外道者どもが」
クラウスさん、ゆらりと立ち上がる。
そして殺意を目に、拳を放つ。
悲鳴と爆発音が上がった。
クラウスさんの牙は折れちゃいない。
私を庇い咆吼する姿は、もはや本物の獣だ。
完全に相手の命を気遣う気など無く、その怒れる拳で敵を屠っていく。
私は全身を朱に染め、ヒューヒューと虚ろに呼吸をし、内側から爆発しそうな力を、必死で留めている。
なのに、聞こえるのは歓声ばかり。
歓声とは何かって?
「死んだ!? あいつまだ死んでねえの!?」
「俺が撃った弾に当たったぞ!! 皆見てただろ!?」
「マジで世界終わるの!? すっげー! さっさと終われよ!!」
「実況配信しようぜ! 世界崩壊配信!! ぎゃはははは!」
……そういうことである。
クラウスさんが『牙狩り』に負けたのではない。『牙狩り』がついに防御陣を破ったと同時に、連中の攻撃が始まった。
私はヘルサレムズ・ロットの酔狂な連中によって殺されたのである。
世界崩壊を『お祭り騒ぎ』と解釈した、バカ共によって。
『牙狩り』の人らはどうなったかって?
……そいつらに殺されかかって、逃げてます。生きてたら今頃、病院の待合室かなあ。
恐るべし、ヘルサレムズ・ロット。
一瞬の娯楽のために全身全霊を賭けるクズ共のたまり場!
……でも実を言うとそこまで嫌いじゃない。
そういう馬鹿さに救われるところもあるのだ。
あ、いや今、命を狙われてるのはムカつくけどね!!