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【血界戦線】紳士と紅茶を

第5章 終局




 私はいただいた聖書を、大事にふところにしまい込む。
 まだ『組織』の影に怯えていた頃、クラウスさんが聖書を読む心地良い声で、私はようやく眠りにつけた。 
 信仰こそ持つに至っていないが、今や無いと困るものだ。

「終わったら、また二人で一緒に読もう」
「はい!」

 信じてくれる。
 二人で過ごす『実現するかもしれない未来』を。
 その甘く儚い可能性に、わずかに勇気を奮い起こされる。

 ありがとう、クラウスさん。
 私、あなたを好きになって本当に良かったです。
 あなたのためだけに、私、頑張ります!!

「それからライブラで盛大にパーティーを催すとしよう。君との婚約発表はそこで行っていいだろうか?」
「は?」
「君は私の家族が気にかかるようだが、一度、私の家族と会話をしてみるかね?」
「いや冗談じゃ――コホン、その話はまた後ほど――」

 ……励まして下さるのは非常に嬉しいんだけど、雨後の竹の子のごとく死亡フラグを乱立させんで下さい。

「そして庭のバラ園を作る話だが、ヘルサレムズ・ロットにも有名なバラ園がいくつかある。
 本格的な造園に取り組む前に、そこを回ってみて二人で構想を立てよう」
「いいですね……」
「そうだ。病院の予約も入れなくては。念のため車イスの手配もか。診療予約は今から入れたものか――」

 ……クラウスさんが語ってるのは『実現するかもしれない未来』じゃなかった。

 単なる『来週の予定』だ!!

 
 楽観的通り越して、成功を確定事項として語る姿が、逆に不安。
 でもここまでされたら、私もクラウスさんのポジティブが移ってくる。

 前振りだけ長いけど、奇跡とか都合良く起きて、さくっと十分で終わるパターンかもしれないじゃないか!
 だってここはヘルサレムズ・ロットなんだから!

『未来』を『未来』ではなく単なる『予定』にするために!

 クラウスさんはベストとネクタイを着用されてる。
 ナックルとグローブはいつでも使用可能な状態だ。

「クラウスさん、行きましょう!」
「ああ」

 そして私たちは扉を開け――。

「カイナ!!」

 爆発でアパートが盛大に吹っ飛んだ。

 クラウスさんは私を抱え、宙を跳ぶ。
 そばを他の部屋の住人が爆風に煽られ、飛んでいくのが見えた。


 だから呑気に寝てる場合じゃなかったでしょうが……。
 

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