第5章 終局
クラウスさん、私を不機嫌にさせたと思ったのか、オロオロし出した。
「だ、だが私の一方的な判断でもあったことは認める。決して君の気概を疑った訳ではないのだ。
不快にさせてしまったのなら、どうか謝罪させてほしい! 君を信頼し、もっと話し合いをすべきだったと――」
「い、いえ、そこまでの謝罪、いらないですから! クラウスさんの判断で全然OKっすから!!」
豪胆なんだか繊細なんだかも、よく分からんお人だ。
そもそも契約解除が成功すると確信してくれてる時点で、これ以上の信頼はないだろう。
今のとこ、世界中にクラウスさんだけだ。私の成功に賭けてくれてる人は。
「それはそれとして、スティーブンさんと連絡を取られてたんですか?」
よしよしと、恋人の頭を撫でるとクラウスさんは顔を上げた。
「現物はすでに処分したが、扉に紙が差し込まれていたのだ。署名は無かったが、スティーブンだ。
先日の襲撃の一件から場所を割り出したか、私がライブラを出た時点からチェインを尾行につけていたかのどちらかだろう」
……平然と言ってるけど、死ぬほど恥ずかしいなあ。
潜伏先のアパートで、毎日のようにイチャついてたんだし。
でも。だからこそ。いざとなったら皆が駆けつける~みたいな展開は期待出来ないと分かった。
前回の襲撃時、足手まといの私を抱えたクラウスさんは大変そうだった。
けど、結局どこからも助けは来なかったのだ。
「安心したまえ」
クラウスさんは私の両肩に手を置く。
「君は必ず成し遂げる」
「クラウスさん……」
「それとこれを」
「あ……!」
渡されたものを手にし、私は目を見開く。
「君が必要としていたものだ。遅くなってすまない」
いつか『欲しいもの』としてリクエストしたもの。
聖書だ。書店に置いてあるような普通の。
もちろん、私には信仰心はない。
でも私とクラウスさんが出会った当初、私たちは英語の勉強を兼ねて聖書の読み合わせをしていた。
だからいつしか、これは私にとって安心出来るお守りみたいになっていたのだ。
「こんな状況下だから、こういったものしか購入出来なかった。だがこの一件が終わったら改めて――」
「いいえいいえ! これで十分です!!」
前のやつ、超お高い特注品だったしなあ……。