第5章 終局
「い、急がなきゃ! 急いで準備しなきゃ!」
私はドタドタと駆け回る――ことは出来ないので、ゴロゴロと畳の上を転げ回る。
「落ち着きたまえ、カイナ。きちんと朝食を取って――」
はいはいはいはい!
差し出されたホットドッグを紅茶で流し込む。
あーもう。
『契約解除は何十年かかってもいい』とクラウスさんが言われたので、内心では余裕こいてた。
なのに、いきなり本日強行になってしまった。
これから神性存在との契約解除を行う。
やらないと、私は生きた世界崩壊幇助器具――『世界を終わらせるアイテム』として、永久封印される。
「服!! 服!! 今日のために買った服! どこにやったんですか、クラウスさん!?
祈りをこめて、真っ白に清めてあるはずの服!」
「ああ。バケツで漂白剤に浸けてあったあの服かね?
ラベルの説明はよく読みたまえ。
原液の薄め方が足りず金属製のボタンが若干腐食してしまったから、先日の家庭ゴミ収集日に処分させていただいた」
貴族なんだか庶民的なんだか、よく分からねえ!!
仕方なく別の新品の白いシャツ(半額処分セール購入品!)を身につけ、
「カイナ、その……非常に無粋な指摘であることは承知の上だが、その純白のシャツだけでは君の愛らしい下着が透けて見えてしまう。
それに今日は寒いからそれだけでは風邪を引いてしまうかも知れない。出来れば上着を羽織――」
最後まで言わせる前に、クラウスさんのお腹に頭突きをし、涙目で上着を取ったのであった。
というか、クラウスさんが当たり前に明日の話をしてるんだけど……。
ぷ、プレッシャーがハンパねえ!! い、胃が、キリキリと!!
「だいたい! 何で昨日のうちに言って下さらなかったんですか!!」
緊張感をほぐすため、八つ当たりをさせていただいた。
「昨日教えても、君には精神的な重圧になるだけだろうと判断した。
君の解除式発動は、体調の万全を持って当たらねばならない。
先日の襲撃でも、君は心に傷を負った。これ以上、ストレスを与えることはしたくなかった」
……それはごもっともだけど。
敵が迫ってるって情報をつかんどきながら、普通に私を抱くクラウスさんも、どういう神経なんだ。