第5章 終局
「? カイナ。君はもしかしてスティーブンを苦手に思っているのかね?
彼は確かに子供の扱いが不得手かもしれないが、私にとってスティーブンほど信頼のおける男はいない。
この件が終わったら一度、彼と二人で食事をしてみてはどう――」
「No thank you」
キッパリと答えておいた。
それと今、クラウスさんが私を子供カテに分類しているという、危険なことをサラッと仰ったような。
……何も聞かなかったことにしよう。
「先の話を安易にすることを、日本では『鬼が笑う』って言うんですよ?」
契約式解除が本当に上手くいくか分からないのに、その先の話とかなあ。
すると私の肩に大きな手が置かれた。
クラウスさんが片膝をつき、私の顔を見る。
「君が術式を解除している間、私が君を守ろう。
戦いは男の仕事だ。相手が悪鬼羅刹であろうと引きはしない。
だから君は己が為せる最善を」
「はい!」
私は立ち上がる。
基礎理論は終えた。解除のための術式も、自分の中で組み上がっている。
もう――準備は出来ている。
「待ちたまえ。はやる気持ちもあるだろうが、まずは体調を万全に整えることだ。
しっかりと睡眠を取って、栄養も取り、英気を養う」
睡眠ねえ。もう100%、悪夢しか見ないから夜中何度もクラウスさんに起こされる。
昔の睡眠障害、再びで、今の平均睡眠時間は一時間半程度。
おかげで勉強がサクサク進みましたけども。
「なら、疲労で夢も見ない状態になれば良い」
「でも未だにちゃんと歩けないんだから、運動もクソも――」
私は言葉を切る。
クラウスさんが私の手を取っていた。
わたくし、その手をそっと離そうとする。
ギュッと握られた。
反対の手で引き剥がそうとする。その手をクラウスさんの別の手に押さえられ、両手を握り合っているような微妙な構図になる。
ブンブンと手を振る。
クラウスさん、つきあって手を振ってくれるが、離さない。
親指でさわっと私の手の甲を撫でる。
「離して下さい」
「カイナ。君と私は婚約した間柄なのだし」
知らんわ。あなたが一方的に言ってるだけでしょうが。
だがクラウスさんはグイグイ迫り、私は畳の上に押し倒される。
クラウスさんの大きな身体の影に、私は完全にすっぽり入ってしまったのだった。