第5章 終局
それからさらに数日。
前回の襲撃が嘘だったように、今度の家では何も起こらなかった。
私の勉強も、本番こと契約解除に向け大詰めだった。
…………
クラウスさんが、私の前に水を張った盆を置く。
「カイナ。用意した」
「あざーっす」
私はタブレットを置き、お盆の前に正座する。
その向こうでクラウスさんは、静かに私を見ていた。
私は意識を集中し集中し、頭の中で術式を組み上げた。
「っ!!」
お盆の水に向け手をかざす。
すると盆の水が盛り上がり、光り、固まり――高さ五十センチばかりの氷のヒグマとなった。
パチパチと拍手する音が聞こえた。
「見事だ! スティーブンに是非とも見せたいものだ」
惜しみの無い拍手を下さるクラウスさん。
まあスティーブンさんも氷系統ではあるが。
「でもイメージと実物が違うのはちょっと問題ですね」
荒々しく仁王立ちするヒグマをイメージしたのに、なぜか鮭をくわえてるし。木彫りか!
まだまだ術式の改善の余地があるなあ。
中級術士用魔導専門書を、もう一度読み返さねば。
「己を気取らないのは君の美徳だが、もう少し自分を誇りたまえ。
このような短期間でここまでの成果を出す者は、そうそう出るものではない。
君が正規の見習い術士だったのなら、ぜひ弟子にと、高位の術者たちが競って獲得に乗り出しただろう」
いやあそれほどでも。ウフフフ。
……いかん。謙虚、謙虚。
私は気持ち悪い笑いを収め、頬を叩いた。
私は氷を魔術で蒸発させながら、
「あと、まとまった量の水がないとダメなのは痛いですね。
やっぱり皆さんの『血を使った術』はすごいです」
自分の血に術式を付与し、それを媒介に『技』を使う。
それがライブラ精鋭たちの戦い方だ。
「まさかプール抱えて戦うわけに行かないし」
自力で水を補充するなら固有空間とか結界とか、またさらに高度な魔術の習得が必要になる。
その段階に行くまでは、何年も修行しなくてはならないだろう。
血なら、いちいち外部の媒介物を用意しなくて済むし便利だ。
ただ例外なく、地獄のような修行が必須らしいが……。
「君は血闘術に興味が? ならばスティーブンか彼の流派の者に話を通して――」
「いいです、いいです!!」
あの人が兄弟子系列になるとか、絶対に嫌だ!!