第5章 終局
「だから、今、こんなことしてる場合じゃ……んっ……」
顔を背けるが、あごをつかまれ、意外に強い力でキスをされる。
「ぁ……」
キスしている間に唇を強引に割られ、厚い舌が滑り込む。
最初は嫌がって舌を軽く噛んで抗議もしたけど、構わず好きになめ回される。
「ぁ、ふ……いや、だから……クラウスさん……!!」
手を突っぱねて抵抗しようとしたら、腕一本でこちらの両手首を押さえられた。
「安心したまえ。君の身体の負担は最小限にするつもりだ」
だが夢を見ないくらいに疲れさせる気ではあると?
ぷちっとこちらのボタンを外すケダモノを、冷たい目で見上げる。
「お勉強の成果、出るといいですねえ」
酷薄な目で嫌味を述べると、敵は若干詰まって目をそらし、けどまっすぐ、こちらを見た。
「その……女性の君には信じてもらえないかもしれないが、君に負担をかけない方法を探していたのは本当だ。
私は何度か君を傷つけてしまったし、君の意思に反した恥ずべき行いも何度かしてしまった。だから――」
「噛み癖を治す方法が乗ってるエロ本なんぞ、あるんすかねえ」
わたくし、やはり冷たく応ずる。
「…………」
クラウスさん、ちょっと申し訳なさそう。
だって何だかんだで今も私を甘噛みするの、お好きみたいだし。
けど私を押さえつけつつもショボーンとした様子が、何だか大型犬みたいに見えて、ちょっと笑う。
「冗談ですよ。怒ってないですから」
「カイナ……」
それでクラウスさんもやっと、ホッとした顔になる。
顔が近づいてきたので目を閉じると、すぐ唇が重なった。
唇の端に牙が当たるのが、くすぐったくて心地良い。
「君に触れて構わないだろうか?」
「最初から何一つ嫌じゃないですよ。どうぞお好きに」
「カイナ。君を愛している」
私を見下ろす碧の目は、どこまでも深い。
もう一度、深いキスをしてくれた。
それはそれとして……いい加減、手首を押さえてる手を離せ。