第5章 終局
そんなこんなで数日が過ぎた。
幸い、私たちの静かな生活を乱す者はなく、私も魔術の勉強に精を出すことが出来た。
で、今日も私はお勉強中である。
「よって魔導演算子の固有結界にかかる水術関数452式を特に結界座標の波動式魔導関数と(中略)第四結界座標の波動式魔導関数によって――」
ぶつぶつぶつぶつ。
ノートもかれこれ五冊目。最初は中学校の数式みたいな簡単な式が中心だったが、だんだんと意味不明な式と図形ばかりが増えていく。
すると靴をぬぐ音がした。お盆を持ったクラウスさんが畳に上がってきたのだ。
「カイナ。少し休みたまえ。紅茶を淹れた」
「あ、すみません、クラウスさん。いただきます」
私が目を向けると――ティーカップの中の紅茶が瞬時に蒸発した。
「……カイナ。前にも言ったが魔術で紅茶を飲むのは止めたまえ。火傷をする」
「大丈夫ですよ。適温以上の熱は放散しましたから」
クラウスさんはため息をつき、私の横に座る。
私は転がって、クラウスさんのお膝に頭を乗っける。
お。頭を撫でて下さった。ゴロゴロ。
「ところでクラウスさん。分からないことを伺いたいのですが。
複素クリフォト空間は、波動式魔導関数とト・メガ・テーリオン空間の直積で表される結界座標指数という解釈で合ってますか?」
するとクラウスさんはペンを取る。
「非キムラヌート論ならそれが正しい。波動式魔導関数とト・メガ・テーリオン空間は(中略)よってセトのトンネル方程式で二次結界の近似まで計算すると――」
クラウスさんがノートに書かれる式を私はうんうんと頷きながら見――。
「!!」
ボンッと音がした(気がした)!
私は頭から煙を出し、バタッとクラウスさんの膝に倒れ込む。
うう。頭が限界を迎えてしまった。
「カイナ。冷却ジェルをつけたまえ」
クラウスさんは慌てず騒がず。冷え○タらしきものをつけて下さる。うーん、気持ちいい。
ちなみにこれに似たやりとりを、毎日数回はやらかしている。
「情けないです。たかがこれしきのことで」
「そんなことはない。本来ならば数年かけて学ぶべきことを、数日で詰め込もうとしているのだ。
脳が過負荷になって当然のこと。君の努力は称賛に値するが、無理は止めてくれたまえ」
はーい。