第4章 異変
ごめんなさい、ごめんなさいと言い続けた。
大事な人のことを忘れるとか、マジでありえん。
ごめんなさい、ごめんなさい。
忘れてごめんなさい。思い出せなくてごめんなさい。
泣きながら謝り続けていたら、また光が差してきた。
『…………』
やべえ。野生のアラスカヒグマが現れた。
全長3メートル。何という赤毛。
その一撃は、成人男性の頭蓋骨を吹っ飛ばすであろう。
うわ。私をなじっていたお母さんが気絶してる!!
「すみません。生きたまま食べるのは勘弁して下さい。苦痛を感じる暇もなく頭を吹っ飛ばす方向で」
アラスカヒグマに必死で訴えたけど、ヒグマは大人しい。
私を襲うことなく、その大きな身体を私にすり寄せると、歩き出した。
去って行くのかなと思ったけど、少ししてこちらを振り向いた。
「ついてこいって? 巣ですか? もしかして冬眠中の保存食にでも?」
クマさんは応えない。ただ優しいまなざしで、私を見ている。
うーむ。機嫌を損ね、お母さんが食われても困るので、渋々ついていった。
そうするうちに、ただでさえおぼろげだった、私の故郷が霧に包まれていく。
私はクマさんのごわごわの毛に片手を預け、一緒に歩いて行った。
そのうちに霧が少し薄れ、気がつくと、そこはヘルサレムズ・ロットの街だった。
「あれ?」
気がつくと、私を導いてくれたクマさんがいない。
どこにもいない。
あんなに怖かったのに、放り出された方がもっと怖かった。
「どこですか? 巣に連れて行ってくれるんじゃないんですか?
――――さん、――――さん!!」
ヘルサレムズ・ロットの街で、私はクマさんを探し続けた。
…………
ぬくぬくとした熱に包まれ、意識が浮上する。
「クラウス、さん……クラウスさん……!」
「カイナ。私はここにいる。ずっと君のそばに」
誰かにキスをされ、目を開ける。
目の前に凶悪な面構えの男性がいた。
「うお!!」
食われるかと思ってビビって身体を離しかけたら、抱き寄せられた。
「ん……?」
目をパチパチさせると、クラウスさんがハンカチで私の目元を拭いてくれた。
今どきハンカチとな。さすが貴族!!
……何で私の目元を拭くんだろう。
ボーッとクラウスさんを見上げてたら、またもキスをされた。