第4章 異変
夢では、またとんでもない悪夢を見た。
夢の空間一面に、大量のおぞましい光の渦があった。
不思議と、私のことをものっすごく嘲笑してくるのは伝わってきた。
相変わらず『アト少シ』『トオレル』と口々に言って笑っていた。
私はとにかく怖くなった。
泣きながら逃げたけど、光はどこまでも追いかけてくる。
ついに疲れてうずくまる。
すると光は私に追いつき、私を食い始める。それも皮膚を一枚二枚と薄皮を剥がすようにゆっくり、じわじわと。
血しぶきが飛び、悲鳴が上がる。なのに死んでも死んでも私は生き返り、また一から食い散らかされる。
断末魔を延々と上げ続ける私に襲いかかりながら、光の渦たちは、ただケタケタと笑っていた。
『こっちへ!!』
誰かが私の手をつかんだ。
私は光の渦の中心地から起き上がり、引っ張られるまま走り出す。
大きな背中。力強い手。
この人、誰だっけ――。
かと思うと、場面が変わって、私は灰色の空の街にいた。
どこか見覚えのある光景だった。すぐ分かった。
『帰れた……私、やっと家に帰れたんだ……!!』
叫んだ。間違いない。この街を私は知っている!
……でも家の場所が分からん。両親の名前が分からんかった。
色々あって、私の過去の記憶は虫食い状態なのだ。
でもまあ、そこは夢。上手くいくもので、フラフラしていたら『家』に帰れた。
見慣れた玄関と窓を見て、
『お母さん!! 帰ってきたよ!!』
嬉し涙で叫んだら、玄関のドアがバタンと開いた。
『カイナ!! カイナ!!』
玄関から飛び出し泣きながら私を抱きしめたのは――知らないおばさんだった。
いや、私のお母さんだと思う。記憶もチラホラ浮上する。だが、いかにあり合わせの記憶でごまかそうにも、完全には思い出せない。
言葉も通じない。
次第に”お母さん”は険しい表情になる。
『あなた、誰? カイナじゃないの!? そっくりだからって、わざわざからかいに来たんですか!?』
多分、こんなことを言っているんだと思う。
行方不明者を語る悪質なイタズラだと思ったのだろう。
”お母さん”は鬼のような顔だった。
違う。私は間違いなくあなたの娘です。
そう言いたいのに、言葉が分からない。
お母さんのことが思い出せない。