第4章 異変
色々悩んだり、記憶の欠落にちょっと不安を感じたりした気もしたけど、どうでもよくなってきた。
クラウスさんも肩のお力を抜いたようで、
「カイナ。そろそろ眠ろう」
ご機嫌で私を抱き上げる。
だがしかし。
「いやです、今日はコタツで寝ます」
キッパリと言い、下りようとした。
しかし子猫でも抱えてるかのように、クラウスさんはビクともしない。
むしろ慈愛の目で私を見、唇に軽いキスをする。
「ん?」
ちょっと戸惑った。私とクラウスさんは、こんなことをする関係だっただろうか?
私が首をかしげると、クラウスさんはすぐに『!!』という顔をし、慌てたように顔を離す。
「す、すまない!! 今の行為は親愛のつもりであり、決して君が困惑するような行動を強要する意図はなく、君の意に沿わぬものであったなら深く謝罪を――」
……思いっきり狼狽する紳士を見て、何だか安心する。
同時にサッと視界が開け、気がつくと私は笑っていた。
さっきまでの『何かが欠けたような』感覚がどこかに行き、とても落ち着いた気持ちだった。
「何言ってんすか、クラウスさん。一応つきあってるんだし、昨日も今朝も普通にキスしたでしょ」
「――っ!!」
……その瞬間の恐怖を忘れまい。
クラウスさんが……微笑むだけで子供をギャン泣きさせることに定評のあるクラウスさんが……さっきに輪をかけ、全開の笑顔になった!!
恐怖で気絶するところであった。
「思い出したのかね!?」
「……ぐはっ……思い出した? 何の話ですか?
昨日今日あったことを忘れるって、どんだけボケてんすか」
笑顔の恐ろしさと、猛烈な勢いで抱きしめられるという連続攻撃で、一瞬本気で逝きかけた。
だがクラウスさんは、
「良かった……本当に良かった。君を不安にさせてすまなかった。どうか私を許してほしい」
許す? 何を? ああ昨晩、夜明けまでヤってたこと?
今さらですなあ。
「そうですねー。クラウスさん。今日は何も無しですよ? 連日の睡眠不足からいい加減に解放されたいですから」
「……も、もちろんだとも。君の意思を何よりも優先したい」
クラウスさん、なぜかガッカリした顔であったが。