第4章 異変
私はちょろっとコタツ布団をめくる。
おお。電熱器の色の何たる優しさ。全てを包み込む慈母のごとし!
いったいクラウスさんはコタツの何を差し、麻薬のように言い立てるのやら。
「…………」
私は慎重に周囲をうかがう。よし、クラウスさんはいない!
「ちょっと。ちょっとだけ。ちょっと足を温めて、すぐ出ればいいし~」
バッとコタツ布団をめくり、その中にスライディングしようと――。
「カイナ」
低い声とともに、足首つかまれた。
私は悪あがきに、床をガシガシとかくけど、一歩も進まぬ。
そして背後からは血凍道と間違うほどの冷気が漂っている。
「足を温めるだけ。足を温めるだけっす」
「ならば私が手ずから、君の足を温めさせてもらおう」
止めて。そういう倒錯的な方向は望んでないから、靴下脱がせようとするの止めて!
「カイナ。私と約束したのではないのかね。二度とコタツの誘惑には乗らないと!」
「何でそこまで大げさなことになってるんですか。クラウスさん、何でそこまでコタツが嫌いなんです!」
「…………。君が、私の相手をしてくれなくなるから」
ボソリ。
いい歳した大人が、すねたように言った。
…………。
「クラウスさん……」
私はそっとクラウスさんの手を握る。
「私、クラウスさんに、どこまでもついていきたいです」
するとクラウスさん、ものすごく顔を真っ赤にされた。
私の両手をガシッと握り返し、
「カイナ! き、君にそう言ってもらえるのはとても光栄であり、私も君と共に――」
「ですがクラウスさん。人には譲れぬ一線というものがあるのですよ」
パシッとクラウスさんの手を振り払う。
そしたコタツ布団をめくり上げ、クラウスさんを振り返る。
「幸せでした……さようなら、クラウスさん!!」
「カイナ! 君を行かせはしない!! どうか私のそばに!!」
クラウスさん、私の腰を抱き、引き寄せる。
そしてしばらく二人でもみ合い、
「……くく……」
「ぷ……あははははっ!!」
二人で顔を見合わせ、しばらく笑い合った。
……クラウスさんの全開の笑顔は、気絶しそうになるほど怖かったが。