第4章 異変
でも私の許可がない限り、勝手に私の物を処分しないとこはクラウスさんだなあ。
「……?」
何かまた記憶が抜けてたような。私、そこまでクラウスさんのこと、知ってたっけか?
クラウスさんは両手にトレイを持ち、
「さあカイナ、少し遅いが夕食にしよう。ギルベルトが特製のチキンシチューを作ってくれた」
「あ、はいです!」
尻尾をぶんぶん振ってテーブルについた。
「美味しそう!」
「うむ。いただこう」
と、上機嫌のクラウスさんのお皿は……濃縮レバーの山盛りであった。
クラウスさんの食事は朝昼夕を問わず、大量のレバーがついている。
血闘術にしろ血法にしろ血凍道にしろ、ライブラの皆さんの戦闘は基本、血液を大量に消費する。
なので、日々の鉄分摂取が欠かせないのだそうな。
…………?
まただ。また、覚えのない知識が勝手に浮かんできた。
でも嫌な感じは全然しない。むしろ心地良い。
自分の中の穴の空いた感じが、どんどん埋まっていく気がした。
するとクラウスさんが、私の視線に気がついた。
「食べるかね?」
ちょっと照れ顔のクラウスさん。真っ赤なレバーをフォークにブッ刺して『あーん』という感じで、こっちに近づける。
「遠慮致します!」
ぶんぶんと高速で首を『No』に振ると、
「……そうか」
しゅーんと寂しそうな顔をし、差し出したレバーをご自分の口に入れるのであった。
そして、お食事が終わる。クラウスさんは皿を持って立ち上がり、
「皿洗いをしてくるから休んでいてくれたまえ」
「え? 私も手伝います! というか私がやります!」
慌てて立ち上がると、
「ありがとう。だが労働は私が。それに君は身体がまだ弱っている。どうか休息を」
「……ど、ども」
私の頬にキスし、クラウスさんはリビングを出ようとして、
「いいかね、カイナ。くれぐれも――」
振り向いたその顔には『鬼』がおった!
「ここここコタツには近づきません!」
うむ、と鷹揚(おうよう)にうなずき、クラウスさんは去って行く。こ、怖い。
……。
…………うずっ。
禁止されるとやりたくなるのは、人のサガと言えよう。
「いやでも、それでクラウスさんに呆れられたら……」
うずうず。
私はそーっとコタツのプラグをコンセントにブッ刺した。