第4章 異変
うーむ。
何かすることがあったような……。
「どうかしたのかね? カイナ」
クラウスさんが振り向く。
「あ、いえ」
「遠慮せずに言ってくれたまえ」
「そうですか? あの、車イスはちょっと大げさです。
それに、何で私、ここに……」
私は今、車イスに乗ってクラウスさんのそばにいる。
車イスって、足の悪い方とか、体調の悪い方が乗るもんでしょう。
それをのぞいても、クラウスさんのすぐそばにいなきゃいけない理由が分からん。
「君は経過観察が必要な状態にある。
そして私がここにいれば、不測の事態にすぐに対処が出来る。理解してくれたまえ」
「……は、はあ」
あんまり理解出来ないけど。
車イスが必要になるくらい、弱ってるとはとても思えないけど、クラウスさんがそう言うのであれば逆らえない。
私の車イスがある場所は、ほぼクラウスさんの真横。
自分で移動しちゃダメ。
動きたければギルベルトさんが押してくれるけど、老執事さんの手をわずらわせるのも申し訳ない。
かといって、やることがないし、何か手伝えるわけでもなし。
難しい字が読めないから読書も出来ず、ボーッと、窓の外の夜景を見てる。
あ、いただいた聖書をパラパラめくったりもして、挿絵とか眺めてる。
けどホントに書き込みが多いなあ。
このくっそ下手くそな字、ホントに誰の字なんだろ。
「分からないことがあれば、何でも聞いてくれたまえ」
「ども……」
お仕事中の人の邪魔はしませんって。
「退屈かね? もう少しで終わる。そうしたら一緒に何か食べにいこう」
そう言って私の頭を撫で、額にキスをする。
そんな感じで、クラウスさんは絶えず私をかまうのだった。
…………。
よく分からない。クラウスさんはたまに教会に様子を見に来て、ときどきドーナツをくれるだけの人だった。
何でこんなことになってんだろう。まるでボスの愛人か何かになった気分。
……いや、まさかね。こんな、歳の離れてる小娘を相手にする理由なんかないし。
ちなみに、このオフィスにいるのはスターフェイズさんだけ。
他にはギルベルトさんがいるのみだ。
「私、ここにいていいんですか?」
「もちろんだとも! いつまでも私のそばにいてくれたまえ!」
い、いや、そんな重い意味合いで聞いたわけでは。