第4章 異変
「美味しいです、ギルベルトさん」
ベッドからソファに移り、甘いココアを飲んで一息。
「そうですか。それは良かった」
ギルベルトさんはニコニコされている。
「でも何で私、ここにいるんでしょう」
「気を失われる前、何をされていたか覚えておいでですか?」
うーん。
「クラウスさんに聖書をいただいたことは覚えてるんですが……あ! あの聖書……!」
どこにやったんだ、と真っ青になると、
「こちらですか?」
ギルベルトさんがスッと差し出してくれた。私は大慌てでそれを胸に抱きしめた。良かった!
「失礼ながら介抱させていただくとき、所持品の中から見つけました。
ずっと、お持ちになられていたのですね」
「クラウスさんにいただいたものですから!」
安心してペラペラめくる。
「……? あれ?」
おかしいな。もらったばかりだから、汚さないよう大切にしてたはずなのに。
半分以上のページに書き込みがしてある。
達筆できれいな字と、下手くそでガタガタの字の二種類の書き込みがあった。
「ど、どうしよう……いただいた本なのに……どうしよう……!」
震えてしまう。クラウスさんに嫌われる。それだけは絶対に嫌だ。
「心配いりませんよ、カイナさん。その字は坊ちゃまの書き込みです」
「え? そうなんですか。良かった~。じゃあ、この超下手くそな字、誰ですか?」
「下手ということはございませんよ」
「そうですか? こんな汚い字を書く奴、心が醜く歪んでるに違いございません!! きっと超々性格が悪い大馬鹿ですよ!」
「カイナさん、私には、とても可愛らしく優しい字に思えますよ?」
「マジッすか?」
とか何とかギルベルトさんとやりとりしてると、だんだんと調子が良くなってきた。
でもまだボーッとするので、ソファに横になって、ギルベルトさんの仕事を眺めてた。
時間がゆっくり過ぎていく。あ、いや、遠くから爆音とかはときどき聞こえるけど。
「カイナさん、三時のココアをお召し上がりになりませんか?」
「いただきます!」
そのうちに夕暮れになり――。
「カイナ!!」
「うわっ!!」
帰ってきたクラウスさんに、ものっすごい力で抱きしめられた。
ソファで毛布にくるまり、うとうとと寝かけてたので、一瞬だけ迷惑であったが……。