第4章 異変
「君のいる組織『メビウスの輪』のヘルサレムズ・ロット支部は、現在壊滅状態にある。
そのため、同盟関係にある僕ら『ライブラ』が要請を受け、君の身柄を一時的に預かることになった」
「…………」
そんな話、クラウスさんから聞いたことがない。
私の戸惑いを見て取ったのか、スターフェイズさんは珈琲を飲みながらスマホを出し、
「信用が出来ないのなら、あっちの幹部の画像と動画もあるけど、見るかい?」
「い、いえ……信用出来ないとか、そんなことは……」
スターフェイズさんがスマホを見せようとするので、遠慮する。
顔の傷が怖そうだし、よく知らない人なので、ご機嫌を損ねるのが怖い。
それに一瞬だけ見えた画像は、確かに幹部様のものだった。
なら、スターフェイズさんが言うことは正しいんだろう。
「君はここにいないといけない。元の教会に戻った方が、命令違反になるんじゃないかな?」
「そう、ですね……」
怒られるのは嫌だ。
それにクラウスさんがそばにいてくれるのは単純に嬉しい。
でもクラウスさんが組織のボスで、しかも私の『組織』と提携したなんて。そんな話、聞いたことあったっけ?
何だか頭がパンクしそう。あ、でも聞いておきたい。
「あ、あの……クラウスさん。なら私の実験って、いつ再開になるんでしょうか。
――す、すみません! で、出過ぎたことを聞きました!」
クラウスさんから殺気が吹き上がったので、慌てて謝る。
あれだけ優しかったクラウスさんなのに、今は口調が穏やかながら明らかに機嫌が悪い。
「いや、私こそすまない。君が謝ることは何一つない。
指示があれば追って出す。今は休みたまえ」
「どうも……」
そう応えると、クラウスさんが振り向いて手を伸ばし、私の布団をかけなおしてくれる。
スターフェイズさんは珈琲を飲み終え、ご自分のデスクに戻られた。
私は点滴を動かさないよう、クラウスさんの方を向く。
大きな背中が、カタカタとパソコンを打っている。
よく分からないし、聞きたいことも多いけど……クラウスさんがいるのなら安心だと思う。
私は目を閉じようとした。
……いや。この状況、何か変じゃね?