第4章 異変
うう。鬼の番頭め。
初めてやる作業なのにプレッシャーかけるなあ。
するとギルベルトさんがニコニコと、
「カイナさん、私もお願いしてよろしいでしょうか? 納品された物品の入庫データの入力をお願いしたいのです。私、長時間、画面を見ていると目が疲れるもので」
「あ、そうなんですか? 初めて聞きました。
ギルベルトさんって何でも出来るイメージがあったから、意外です」
「はっはっは。私も見た目相応の老人ですよ」
ギルベルトさんは朗らかに笑う。
見た目相応……包帯ぐるぐる巻きの……ねえ。
ともあれ、書類を受け取り、準備万端。
チェインさんに手招きされ緊張しつつソファに座り、ノートパソコンを立ち上げてもらう。
「で、ここのファイルをこうして――あ、パスワードの入力法、覚えてる?」
「? 初めて使うんだから、パスワードなど存じ上げませんよ?」
「そ、そうだったね。ごめん。パスワードは毎回変わるからね。まずプロトコル設定を――」
メモを取りながら聞く。
そしてどうにか立ち上げ、ポチポチと打っていった。
ええと……コンマの場所ってどこだっけ。あ、また間違えた。
くそ。猫の手も借りたいって言われたのに、これじゃミミズ程度にしか役に立たないじゃないか。
「ブラインドタッチ、出来ないの? さっき出来るって言ってたのに」
「あ、あはははは! いやあ出来る気がしてたんですが! いえスマホと似たようなもんかなーって!」
冷や汗でチェインさんにごまかす。
うう、私のバカ。なんで出来ないのに出来るって見栄はったんだ! いかん、だんだん焦ってきた。
「……構わない、カイナ。少しずつ仕事を覚えてくれるだけでも我々は心強い」
クラウスさんが優しくフォローして下さる……のだが。
「あ、あの、す、すみません……」
「何がだね? 君の前向きかつ向上心あふれる姿勢には、いつも勇気づけられる」
「いやその……」
クラウスさんの雰囲気が、さっきから怖い。
気軽に話しかけられる雰囲気じゃない。
ものっすごい緊張状態というか、目茶苦茶ピリピリして。
私が役に立たなくて、ご機嫌が悪いとか?
そういう人じゃないはずなんだけど……。
やっぱ睡眠時間が短いから、イライラしてるのかしら。
よし、今日の夜はこれを口実にしてちゃんと寝てもらおう!