第4章 異変
四面扉のエレベーターは、私とチェインさんをライブラのオフィスまで運んでいく。
「カイナ、大丈夫? 顔色、悪いよ」
身体をかがめ、私の顔をのぞきこむようにするチェインさん。
そういえば朝のフラッシュバックのショックで、全部リバースしたんだっけか。さすがに顔に出ちゃうか。
……気づかれるな。心配かけちゃダメだ。
ライブラの一員になりたいのに、私に時間を取らせたら意味がない。
皆さんの仕事の邪魔になる。
――クラウスさんが、世界の均衡を守れない。
「うむ。実はですね! いやあ、言って良いのかなあ、こんなこと!
でもどうしても聞きたいと仰るなら、実はクラウスさんが夜明けまで……いえいえ~!
そんなはしたないこと、私の口からはとても! でもでもですね! チェインさんがそこまで聞きたいと仰るのなら――」
「全然っ!! カケラも聞きたくないから!! 黙っていいよっ!!」
怨念をその目にたたえ『地獄の業火に焼き尽くされろ』と言わんばかりのチェインさんであった。
良かった。ごまかせた。
そうしているうちに、エレベーターが止まった。
ん? 扉の向こうから怒鳴り声が聞こえるような……。
『分かった、クラウス。分かったから、とにかく刺激は禁物だ!
まだそうと決まったわけじゃないんだから、過度な心配や干渉は絶対に控え――』
スティーブンさんの声?
同時に、扉が開く。
「…………」
ライブラの事務所には、クラウスさんとスティーブンさんがいた。
ギルベルトさんはいつものごとく、風景のように控えてる。
ザップさんはいないっぽい。
明らかに会話中だったのに、言葉を切るスティーブンさん。
相変わらずうさんくさ――コホン、爽やかな笑顔で片手を上げ、
「や、お嬢さん。休日に悪いね。猫の手も借りたい状況なんだ」
休日だったのか、今日。
私はチラッとクラウスさんに視線を移し――目を丸くした。
「く、クラウスさん、大丈夫ですか!?」
「……私の体調に何も問題はない」
マジっすか? ものっすごく鬼気迫る表情なんですが。
スティーブンさんがゴホンと咳払いし、分厚い書類を叩いた。
「不審魔術痕跡情報の、簡単な振り分け作業を頼みたい。
単純作業だが、それだけに精確さが求められる。出来るね?」
「……が、頑張ります」