第4章 異変
激しい自傷衝動。恐怖、絶望、憎悪、諦観。
あらゆるものがミックスされたどろどろな何かが私を襲う。
本当のことを言えば死にたかった。でも耐えるしかなかった。
「薄まれ、薄まれ、薄まれ……」
バカみたいにブツブツ呟き、どれくらい経ったか。
「…………」
スマホが鳴っている。クラウスさんからの着信だ。
『寝ていたのかね、カイナ』
クラウスさんの声だ。心がポッと温かくなった。
潮が引くように闇が追い払われ、私はいつもの私に戻っていく。
気がつくと最悪の記憶は薄れて、よく思い出せなくなっていた。
「はいです!」
ごそごそとコタツから出て、時計を見る。ほとんど時間は経っていなかった。
でも何で突然、フラッシュバックしたんだろう。
これも堕落王が何かしたんだろうか。
ともかく、全て正常に戻って良かった。クラウスさんのおかげだ!
『君には今日一日、休んでいてもらいたかったのだが、作業の人手が足りず――』
クラウスさんは、ものすごくすまなそう。
「行かせていただきます!」
もうバッチリ体力は回復してるし、問題はない!
皿洗いだろうと書類整理だろうと、何だってやる!
『もちろん座りながら出来る仕事だ。簡単なデータ入力であり、君がこの前やったのと同じ――』
この前やった? ンなはずぁない。それはやったことがないお仕事だ。
「クラウスさん、ご多忙で物忘れですか?
データ入力は初めてですよ。お役に立てるか分からないけど、でも頑張ります!!」
沈黙があった。
『……そうだったな。ではすぐにチェインを迎えに寄こす。一人で出ることのないように』
「はい!」
…………
チェインさんは五分もせずに来た。
昨日、目を離したことを改めて謝られ、一緒にライブラまで行くことになった。
「ええと、データ入力作業、初めてなんだっけ? パソコンは使ったことある?」
「はい。ブラインドタッチは何とか出来ます!」
「……指定したファイルに数字を入れるだけで終わるから、大丈夫だと思うよ」
「最初だけやり方を教えて下さいね。チェインさん」
「…………。もちろんだよ」
チェインさん、今日は何だかたどたどしいなあ。
不思議に思いながら、私はチェインさんの後をついていったのだった。