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【血界戦線】紳士と紅茶を

第4章 異変



 夢では凄まじい悪夢を見た。

 目が見えなくなるほど、おびただしい――でもおぞましい光の渦が私をぶっつぶそうとしていた。
 ものすごく耳障りな音が『あとすこし』『とおれる』と言っていて、気が狂いそうだった。

 …………

 目が覚めると昼前だった。
 枕元のスマホには、クラウスさんからいくつか連絡が来ている。
 けど私はつぶやいた。

「……噛むの、禁止しておいて良かった」
 
 口の中の違和感が無い。朝、朝食の最中に口の中を噛んでしまった。
 その傷がきれいに治っている。

「私、また死んでる」

 静かな部屋でポツリと呟いた。

 多分、これも堕落王のしわざだろう。
 さっきの妙な夢と関係があるんだろうか。
「…………だ、大丈夫。私、『不死』だし」
 死んでも生き返る。
 いや、でも堕落王は、私の不死性を否定してなかっただろうか。
 深く考えないことにしよう。でもそれより。

「クラウスさんに連絡しないと……」

 知らないうちにまた死んだ。これは間違いなく異常事態だ。
 スマホを取り、クラウスさんへ電話をかけようとした。

「…………」

 止めた。

「まだハッキリしたことは分からないし、クラウスさんだって忙しいんだから」

 一緒に仕事をするようになった今なら分かる。
 私のためにクラウスさんがどれだけ、ご自分の時間を割いて下さっていたか。
 そしてクラウスさんのされてる『世界の均衡を保つ』という使命が、どれだけ大変な事なのか。

 そんな人が私のためにどれだけのことをし、何万ページという報告書を書いてくれたか。
 やっと、少しは安心してもらえるようになったのに。

「……迷惑かけちゃ、ダメだ」

 発信を止め、代わりにクラウスさんからのメッセージの返信をする。
「え? 肥料の発注をしたいから、温室の植物の写真を送ってって? もう仕方が無いなあ~」

 起きてベッドから下りようとして。

 ドクン、と心臓が鳴り響く音がした。

「――ん?」

 あ。

 ちょっとヤバい。

 …………

 走って走って、トイレに駆け込んで、朝と昨日食べたものを全部リバースするのは間に合った。
 その後はコタツに潜り込んで頭を抱え、ひたすらに震えた。

 分からない。自分の中で消えたと思った、『実験台』だったときの記憶が、ついさっき。
 
 鮮明に蘇ったのだ。

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