第4章 淡い気持ち【山崎宗介】
宗介の泳ぎは迫力がある。ただでさえ人より大きめの体が水の中に入ると、驚く程のしなやかさで水飛沫を立てて生き始める。
彼は昔から個人種目にばかり力を入れていた。自分にも他人にも厳しいところはあるが、本当の宗介は皆が思っている程『無感情』では無いのだ。
結構マイペースだし、道に迷ったことなんて何度あるか。
他の皆はただただ彼のストイックな部分だけ見て判断してしまっている。
だから、彼を遠巻きに見つめる。
『本当の山崎宗介』を知っているのは、私だけかもしれない。
そんな優越感に浸りたい気持ちを堪えながら、今日も密かに彼の練習を盗み見る。
本当は堂々と見たい。もっと近くで彼の泳ぎを一心に見つめていたい。
あわよくば、部活のマネージャーになって彼を支えたい…
けれど、そこまで望んでしまったら流石に強欲だ。
彼の素顔を知ってるだけでも充分幸せだし嬉しい。
そう思っているのに…湧き上がる欲望は、止まることを知らない。
あれこれ考えている内に、水泳部の練習が終わってしまったらしい。
今日は色々考えを巡らせることが多過ぎてまともに彼の泳ぎを見れなかった。
(勿体無い……)
そう思ってしまう程に、私は宗介のことも、宗介の泳ぎも好きなのだ…
部活が終わった後は、いつも一緒に帰る。
家も近いし、冬だから夜も暗いということもあってその流れになる。
(まぁ、どうせバラバラに帰っても辿る道は同じだからね)
それに………万が一宗介が道に迷ったら、私が案内役をしなければ彼は帰れない。
彼も登下校で道に迷う程馬鹿ではないが……念の為。
宗介「…お前、何でしょっちゅううちの学校に来るんだ?」
帰路を歩いていると、半歩程後ろを歩いていた宗介から問いかけられた。
空「何でって……宗介の部活動姿、見たいんだもん」
言葉を紡ぐ度白く吐き出される息。
私の想いも、いっそのこと全て吐き出して、この白い息のように霧散して無くなればいいのに…
宗介「…本当にそれだけか」
いつもより幾分か低い声で再び問われた。
立ち止まって振り返ってみると、同じく歩みを止めている彼から鋭い視線を向けられていた。