第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
「ちょ、降ろしてください!」
外に出ると目の前には綺麗な海が広がっていた。
海のギリギリまで道が作ってあったのでローはユーリを抱きかかえると、そのままゆっくり足を進めた。
「おまえのスピードだと日が暮れる。それに海に落ちてもらっても困るからな」
ローは笑いを押し殺すと道が途切れている所まで歩いて行き、目の前に広がる海を見た。
この世界も向こうの世界も変わらない海の姿に、なんとなく懐かしさを感じていた。
この世界には海賊はいない。
いや、遠い海にはまだ存在しているとユーリから話を聞いたが、それでもこの世界は平和に思えた。
「おまえは、この平和な世界に残りたいとは思わないのか?」
ローは向こうの世界で、ユーリが多くの傷を負ったことを気にしていた。
この世界にいれば負わずにすんだ傷を見ると、ユーリが後悔していないか気がかりだったのだ。
「……確かにこの世界も思い入れはありますが、今の私の居場所はローの隣ですから」
そう笑顔で答えるユーリは、本当に綺麗だった。
「私…ローと出会えて、幸せってこういう事なんだって初めて分かったんです。だから後悔はない、寧ろとても幸せです」
暗い幼少期を終えてもずっと1人だったユーリは、誰かに愛されるのがこんなにも幸せなことなんて知らなかった。
だからローには感謝してもしきれないのだ。
「ローは?」
ユーリはローの首に手を回し、じっとその瞳を見つめた。
その瞳には不安と期待、そして愛しさが混ざり合っているように見えた。
ローは口の端に笑みを浮かべると、ユーリに口づけた。
「…あぁ、俺もだ。ユーリと出会えて良かった」
ローは静かに笑っていた。
本当に幸せそうなその笑みは、ユーリも初めてみるものだった。
カーン
カーン
ローの綺麗な笑顔をユーリは暫く惚けたように見ていたが、不意に鐘の音が鳴り響いたような気がした。
波の音に交じって聞こえてくる静かな鐘の音は、どこから聞こえてくるのだろうか。
教会にも鐘は付いているが、動いている気配はない。
ローも聞こえているのか軽く辺りを見渡していた。