第19章 望み叶えタマエ
Side死柄木弔
偶然行ったアウトレットで緑谷に出合った。
運命、因縁めいたものが作用したのかと思った。
しかし、そのお陰で分かったことがある。
なぜ緑谷が鬱陶しいのか。
なぜヒーロー殺しがムカつくのか。
心がスっとした。
ずっと晴れなかったなにかがすっと晴れて行くのを感じた。
俺は、信念を見つけたんだ。
気持ちが良かった。
そして、俺は帰ろうとした。
帰ろうとしたのだ。
それなのに、いきなり、クンっと後ろに引っ張られる感覚がしたんだ。
緑谷が引っ張ったのかと思った。
殺してやろうと思って振り返ると、そこには眼帯をつけた女が立っていた。泣きそうな顔をして。
「あ、あの!少し、待ってください!」
その眼帯には、見覚えがあった。
必死に話しかけるその姿には、見覚えがあった。
そうだこいつは、俺が探し続けていた大切な“モノ”だ。
「…お前……」
「あ、いや、えっと、そのぉ……あの…。あっそうだ!」
暫く吃った後、そいつは何かをひらめいたように買い物袋をまさぐり始めた。
その間にそこから去ることも出来たが、その必死さに何故か足が止まった。
「これ!あの、どうぞ!!」
そう言ってそいつは勢いよく何かを俺におしつけた。
「……は?」
「あっき、汚くないですよ!さっき買ったんです!」
そして俺の手にコロンと落ちてきたのは、桃色の可愛らしいリップクリームだった。
「唇、切れていらっしゃるから…その、痛いっ……です、よね?きっとよく効きますよ!……どんな傷でも、痛いものは痛いんです。痛いのは……体に良くないです…から…。」
「……」
汗を飛ばしながら、吃りながら、下を向きながら続けるそいつはどうやら、思っていたより随分とアホで不器用らしい。
「な、なにか、悩みが、あるんですよね。」
「は?」
心配そうに覗いてくるその目に、俺はイラついた。
悩み…だ?
お前が何を知っている。
言葉が軽い。軽すぎる。
「少しでも痛みを減らせればと…おもって。」
「…お前はわかってない。」
「へ?」
手のひらの桃色を床に叩きつけ、踏みつける。
「分かってないのに言うな殺すぞ。」
「…っ!?」
俺はその細い首に、4本の指を巻き付けた。
「俺の個性、なんだと思う?」