第19章 望み叶えタマエ
「ん、んむ……んむむ……ほんとにこれでとれてる?」
「おぉ。とれてる。」
「ほんとに!」
人使くんに日焼け止めを借りて顔に塗り、ティッシュで拭き取る。これだけの事で本当に取れているのか不安だったが、ちゃんと取れているらしい。感動的だ。おばあちゃんの豆袋だ。
「これで全部とれた?」
「まだここ。」
「どこ?んむむ」
人使くんの手が頰っぺにふれた。なんだか擽ったくて目を伏せる。
「……。」
目を開けると、人使くんのなんだか微妙な顔があった。そして、お礼をしていないことに気がついた。
「ありがとう…。あっ、日焼け止めが!」
借りた時から随分薄っぺらくなってしまった日焼け止めを見てはっとする。
「ごめんね。今度買ってくるから。」
「自分のも買えよ。」
「お、おすっ!」
特に怒られることもなくて、私はなんとなく笑顔になってしまった。嬉しかった。こんなに仲良くなれるなんて思ってなかった。そして、特に意識しないうちに、口から感謝の気持ちが溢れた。
「ありがとう…ございました。」
しかし返ってきたのは、ちょっぴり真剣なことだった。人使くんは少し真剣な顔をしていて、なんだか怒られた気分になった。
「…安藤はもう少し人を警戒しろ。」
「警戒…。でも友達じゃないですか」
「俺の個性覚えてるか?」
「え、うん……あ」
「よし、3回まわってワンだ。」
人使くんの言葉に返事をした瞬間、私の身体は思い通りに動かなくなって、頭がボーッとした。やられたっと思う前に私の身体は勝手に体育座りから立ち上がり、クルクルと3回まわった。
「ワン」
「まじで馬鹿だな。」
「……はっ!!なにすんだよー!」
「けいかい、しろよ?」
「…わかりました。」
それから、人使くんとたくさん話した。
人使くんは、此処に猫ちゃんを見に来てるらしい。林間合宿にみんなで行くんだよっていう話もした。来年は一緒に行けるといいねって。
「じゃあまたね、人使くん!」
「ん。林間合宿のこと、いろいろ聞かせろよ。」
「うん!じゃあね!」
私は手を振ると、るんるん気分で教室に帰った。マスクはポケットにしまい、私の頰っぺはゆるゆるで、さっきまでの気持ちはすべて消えてしまっていた。