【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】
第4章 roasting
「…何したら、こうなるの」
漸く部屋の片付けが終わり…くるり、と周りを見渡した家康は、部屋の端の端に一つ、転がった茶匙を見つけた。
転んだと言っていたからその時に飛ばしてしまったのだろうか、と想像するだけで…独りごちながら拾うも、口元が僅かに弛む。
しかしいつも通りの我慢強さで、その柔らかい笑みはすぐに奥へと引っ込められた。
思えば、梅雨の頃。信長様の窮地を救った、とこの城へ連れてこられた千花は、驚く程の速さで彼の――いや、皆の心に入り込んできた。
この時代の者では無いのだ、と言われれば頷かざるを得ない…屈託の無さと、素直さ、ひたむきさ。
そして人を疑う事なんか微塵もないのだろうか、人懐こい笑顔は皆の強ばった心を溶かし。
あの信長様ですら、彼女に気を許しているのは一目瞭然であった。
それが微笑ましい様で、しかし確かに妬ましくもあって。
少しの意地悪を試みたのに、思いもよらずしっぺ返しを喰らい。
「…嫌じゃない、なんて反則だ」
おまけにあんな、泣き濡れた顔。
自分以外にも見せているのだろうか、なんて情けなくも思い返す。
このままで帰してなる物か、と最後の最後、捨て台詞のように吐いた言葉は彼女に届いていただろうか。
千花の前だと余裕が持てない。
それでも、精一杯の虚勢で、少しずつ、距離を詰めて。
彼女の「覚悟」が欲しいが為に――
そこまで考えて、家康はかぶりを振った。
明日も早い…彼女が曲がりなりにも努力しているように、己にも為すべき事があるのだ。
千花のその努力、を思い出して…また弛む口元を今度は隠すことも出来ないまま、彼は行灯の灯を吹いた。