Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
振り返れば、まだ少し戸惑いが混じった表情で、それでも説得させようと強くリヴァイの手首を掴んでは離さないエミリの姿が映る。
「そもそも……ここ、兵長の部屋ですし……だから兵長がベッドを使うべきです!!」
「それを言うなら、この部屋の主である俺の言うことを聞くってのが、筋の通った考えだと思わねぇか?」
「ご、誤魔化そうとしてもムダです!!」
誤魔化そうとしてんのはどっちだ。
必死に顔に集まる熱を誤魔化そうとしているのが見え見えだった。
「…………それ、に……兵長、まだ足も治ってないですし」
今度は、次第にエミリの顔色がどんどん青ざめ、申し訳なさそうに眉根を下げながら負傷したリヴァイの足へ視線を固定している。
「あ? お前、まだそんなこと気にしていたのか」
「まだって……するに決まってるじゃないですか!!」
弾かれたように顔を上げ、これまた必死な形相で主張される。
ずっとそんな真剣な顔を向けられると、返って少しからかいたくなってしまった。
「まあ、そりゃあそうだろうな。俺の足がこんな状態じゃあ、壁外では使いもんにならねぇ」
「え、……あのっ……」
リヴァイの発言に対しエミリは、再び戸惑い始める。顔色変えたり、必死になったり、慌てたり……相変わらず忙しい。
「兵士長がこんなザマじゃあ、笑い話だろうな」
「…………」
さらに追い打ちをかければ、とうとうリヴァイから手を離し、顔を俯かせてしまった。
流石に言い過ぎたか……。
真面目な彼女はこういう言葉を真に受けすぎて、自分を追い詰めてしまう癖がある。おそらくそれで今もさらに自分を責めているに違いない。
「おい、エミリ。そこまで落ち込むことはねぇだろう。別に俺は、お前を責めてるわけでもねぇし、責任を感じてほしくもねぇ」
だから、いつもの元気な姿を見せて欲しい。
この優しさが、今の彼女にとっては逆効果であることもわかっている。
リヴァイの負傷は、訓練兵時代にあった出来事を彷彿とさせるだろう。だとしても、責めることなどできるわけがなかった。
エミリが誰よりも優しいことを、知っているから。