Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
何が起きたのかわからない。それは、リヴァイも同じだった。
気づいた時には、既にリヴァイとエミリの距離は0となっており、唇はお互いのものに触れ合い熱を帯びていたのだ。
まだ想いを告げていない自分が、なぜこんな行動をとったのかはわからない。だが、そうさせたのは、間違いなくエミリだ。
彼女の真摯な言葉と心が、リヴァイの胸を熱くさせた。
しばらくその熱を感じていたくて、目を閉じてエミリとの口付けに浸ろうとしたその時、一瞬で突き放される。
突然のことに驚き、腕の中の存在へ視線を落とせば、そこに居たのは、顔を真っ赤に染めたエミリがいた。
当然のことだが、明らかに意識して戸惑う様子を見せるエミリが、リヴァイにとってはとても貴重なものだった。
エミリは、リヴァイを男として見ていない。
彼女の中でリヴァイはまだ、上司という立ち位置であるため、彼に対してこのような反応を示すことはないのだ。
顔を見られたくないのか……いや、視線を合わせずらいのだろう。エミリは顔を俯かせたまま、耳を赤くさせている。
(ったく、煽ってんのか……)
残念だが、その反応は反則である。
エミリのそんな姿を見てしまえば、もっと、もっと……口付けを交わしたくなってしまう。
「悪ィ……つい、やっちまった……」
咄嗟の言い訳にしては無理がありすぎるそれに、再び焦る。流石のエミリも誤魔化されてはくれないだろう。
案の定、納得のいっていない表情を浮かべている。
「まだ完全に体も回復してねぇだろう。寝てろ」
今はまだ深夜。その証拠にこの部屋も蝋燭を立てていなければ、どこに何が置いてあるのかすらもわからない。これ以上手を出さぬようにエミリに背を向け、ソファで眠るため移動しようと椅子から立ち上がる。
「……あ、あの!! ちょっと、待って……くだ、さい……」
手首を掴まれ、必死にその場にリヴァイを留めようとするエミリの行動。それが何を意味しているかなど、いちいち聞かなくても理解できる。
「わ、私がソファで寝ますから、兵長がベッド使ってください!」
予想通りな言葉が発せられ、逆に妙に納得してしまう自分がいた。