Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
顔を上げようとしないエミリに触れようと手を伸ばす。
さっき、無意識に口付けを落としてしまった今、彼女に触れるようなことはしない方が良いのだろうが、残念ながらリヴァイも自分の欲に勝てるほど、色恋沙汰に関して我慢強くはないようだ。
「……兵長は、いつだって兵長ですよね」
突然の言葉に手が止まる。エミリは未だに顔を下に向けたままであるため、彼女が何を言おうとしているのかが全く読み取れない。
「……どういう意味だ」
行き場を失った手を元の位置へ戻し、問いかけ、次の言葉を待つ。
「私が言えたことではないですが……兵長こそ、もっとご自分のこと労るべきです」
「確かにお前にだけは言われたくねぇ言葉だな」
「…………兵長はいつもそう。兵士長としてのご自分の心配ばかりして」
「あ?」
エミリは何が言いたいのか。
結論が見えず、リヴァイの首は傾く一方である。わかるのは、自分の心配をされているということだけだ。
「……確かに兵士長が負傷は、問題です………………わ、わたし、の……せいですが…………でも!!」
ボソリと小さな声で付け加え、再びトーンを元に戻し、そこでようやくエミリは顔を上げリヴァイを見据えた。
その瞳は、相変わらずとても澄んだ色をしている。
「兵長のあの言い方だと……まるで、兵士長ではない、一人の自分のことをどうでもいいみたいな……そんな風に聞こえます!!」
「は?」
上手く頭が整理できていないのか。めちゃくちゃな言葉をどんどんぶつけてくる。
一瞬、呆気に取られたリヴァイだが、すぐに彼女が何を言いたいのか理解できた。
兵士長としてのリヴァイだけではなく、一人の人間としてのリヴァイも大切にしろと、そう言いたいのだと。
「私が心配しているのは、リヴァイ兵長のことだけじゃない……リ、リヴァイ、さんのことも……心配なんです!!」
「っ!?」
初めてエミリから肩書きではなく名前で呼ばれた。
それどころか、部下から"さん付け"で呼ばれることがまず無かったため、なぜだかとても妙な響きである。
でも、とても、心が温かくなった。