Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「今まで、悲しいことも辛いこともあった……間違ったことだって、たくさん。でも、その時間があったから、私は兵長と出会えました」
たくさんの人たちの命と歩んだ人生。それが、多くの出会いを作ったのだとしたら……
「それって、とっても大きな奇跡だと思いませんか?」
魔法のような奇跡は、きっと存在しない。だけど、一人ひとりの人生によって形作られた、一つの物語は、確かに大きな奇跡であろう。
「…………はっ、あいかわらず……お前は綺麗事が好きだな」
「もう、言われ慣れちゃいましたよ」
おどけたように舌を見せて微笑むエミリが、とてつもなく愛おしくて仕方がない。
リヴァイもオドと同じ側の人間である。綺麗事は嫌いだし、奇跡なんてもの信じようとは思わない。それなのに、なぜかエミリの言葉には説得力がある。
それは、きっと彼女が本気でそう信じているからだろう。その真摯な気持ちが、いつだってリヴァイの心を救ってくれる。
「……お前、本当に馬鹿だな」
「それ酷くないですか?」
初めて、自分の人生を受け入れられた気がした。
調査兵団に入団し、大切な仲間を失い、力を認められ兵士長となるまでは、犯罪者と冷たい視線を浴びていた。
だからなのだろう、いつしか誰にも自分の過去など受け入れるはずがないと思っていた。それは自分の中で、自分がしたことの重大さも理解していたからだろう。
でも、まさか、その生き方を正しいと言われる時がくるなど、誰が想像しただろう。しかも奇跡とまで言い張るときた。
「まあ、お前らしいな……」
掠れた声で紡いだその言葉を受け取ったエミリは、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
きっと、怖かったのだと思う。何よりも大切な存在に自分を否定されることが……
でもやはり、エミリは受け入れてくれた。また、救ってくれた。
胸に広がる熱い感情に呼吸が辛くなっていく。同じようにじわじわと熱を帯びる目頭を誤魔化すため、少しだけ顔を俯かせる。
(ったく、励ますつもりが、励まされてんじゃねぇか……)
情けないと思うのに、どこかすっきりとした心。代わりに入り込んできたのは、抑えられない衝動だった。
それを我慢出来ないと悟った瞬間、リヴァイの唇はエミリのそれとぴったり重なりあっていた。