Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「…………兵長、あなたの生き方は、間違いだったのかもしれません」
道徳的に考えれば、盗みや殺しは人間性など感じられない許されぬ所業である。
「だけど、それはこの世界の理であって、地下街のルールとしては、そぐわないんじゃないですか?」
世界の掟とは、必ずしも一つだとは限らない。
動物、植物、虫……それぞれの世界に、それぞれが定める法があり、そして、己の意志の元に従って生きている。
人が、生き物が、その者たちの個性が違うというのであれば、世界の掟も然り。様々なルールが、きっと存在しているのだろう。
「地上の世界では、間違いであるその生き方は……地下街という場所では、正しかったのかもしれない。もっと言えば、そうせざるを得なかったんじゃないかって、私は思います」
エミリの言葉に驚愕から微動だにしないリヴァイの手を、そっと両手で包み込む。
その手は、とても冷たく感じられたが、エミリの体温によって少しずつ温まっていく。
「兵長、あなたの生き方は……きっと間違いでもあり、そして、正しかった」
この世に"絶対"が存在する確率は、おそらく半分にも満たない。人の生き方は、数字の計算のように確かなものではないのだ。
どの生き方にも、必ず間違いと正解、両方とも存在する。だから、人は懸命に生きようとするのだ。
間違いを知るために、正解を掴み取るために……
「それに、もし兵長がその生き方を選ばなかったら、もっと多くの人たちがこの世からいませんでした。そして、私もその一人です」
壁が破壊されたあの日、リヴァイが助けてくれなければ、いまエミリはここにいない。そして、今回助けた子どもたちも、きっと、生きていなかっただろう。
「私たちの命は、きっとたくさんの人の命と繋がってるんです。だから、そのたくさんの中の一人でも、これまでの人生にズレがあったら……それだけで未来は、全く別のものになっていたんだと思います」
完全に涙が止まったエミリが次に見せるのは、リヴァイが心の底から愛おしいと感じる、とても温かい笑顔。