Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
エミリが涙を流す訳がわからず、リヴァイは内心戸惑っていた。兵士長である自分の過去が、そんなにも酷いものであったと知り、それこそショックを受けてしまったのではないかと悪い方向へ考えてしまう。
「エミリ、お前……なんで、泣いてる……」
親指で優しく雫を払ってやれば、なぜか逆に涙の量が増えていく。これでは拭っても意味が無い。
顔を歪めるエミリは、さっきよりも苦しそうに見える。それば、何故だろう。
「…………へ、ちょが……あんまり、にも淡々と、話すからぁ……」
「は?」
「なんで……自分のこと…そん、なふうに……言うんですかぁ……! へーちょの、バカぁぁ!!」
何度もバカと連呼しながら泣き喚くエミリは、リヴァイに失望したわけではない。その涙の理由は、自分のことをどうでもいいように語る彼の姿に、とても胸が傷んだからだった。
「兵長は、いつだって、わたしのこと……たすけて、くれました……」
嗚咽を混じえながら、リヴァイに対する感謝を全部ぜんぶ伝えたくて、必死に言葉を紡いでいく。
「わたしは……兵長の過去なんて、たしかに知りません……でも、いま、あなたがこんなにも、優しいことは……誰よりもわかってる自信、わたしにはあります!!」
失恋したとき
橋を飛び降りたとき
初めて壁外で薬を作ったとき
心の傷を打ち明けたとき
壁外で行方不明になったとき
受験で悩んでいるとき
試験に落ちてしまったとき
そして、今回も助けに来てくれた。
こんな勝手な一人の部下のために、身を呈して守り抜いてくれた。
リヴァイの優しさ全部が、エミリにとって何よりも大切な宝物であり、失くすことなどできない記憶なのだ。
「……わたしは、地下街がどんな場所かも知りません。でも、ルルたちを見ていたら、そこがどんなに苦しい環境であったのか……何となくですが、伝わりました」
少し落ち着いた様子で、リヴァイの目をしっかりと見つめながら話すエミリの瞳は、いつものあの真っ直ぐとした強い眼差しだった。