Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
脳内で瞬時にそこまで考察したエミリは、目で話の続きを訴え、説明を促す。
「……俺は、エルヴィンに取引という形で調査兵団の勧誘を受け、入団することを決めた。細けぇ話は省くが……兵士として生きることを決意するまで、俺はまともな生き方なんざこれっぽっちもしていなかった」
話の内容は自分のことであるはずなのに、それはまるで他人事であるかのようで、リヴァイの様子はとてつもなく冷めていた。
そんな彼の様子に違和感を感じながらも、エミリは耳を傾ける。
「生きるために盗みを覚え、敵を欺くことに罪悪感など皆無。そして、俺は数え切れないほどの人間を殺してきた。それが、俺の当たり前の日常だったからな」
あの頃の自分を想い人に晒し、なんと滑稽だろうと自分自身を嘲笑うことしか、この時のリヴァイにはできなかった。
こんな話を聞いたエミリはどう思うのだろうか。軽蔑されてもおかしくないほど酷い生き様であることくらいは、幼い頃から自覚している。
例え、生きるためでも……
エミリが言うのと同じ、それは言い訳だ。その上、彼女と決定的に違うのは、それが人のためであるか、自分のためであるかという部分である。
「エミリよ、お前が自分を最低だと言うなら、俺はそれ以上に最低で非道な人間になるんだろうな」
そう、エミリが人を殺めた理由と事実など、リヴァイから言わせてみればちっぽけなものだ。
彼女は、ただ守るべきもののために自らの手を汚しただけなのだから。
それがエミリにとって言い訳だとしても、結果的に彼女は子どもたちの命を救ったのだから。
「散々、あのクソ野郎をクソだと思ったが、俺もあいつと変わらねぇ……いや、あいつ以上にクソだ。
わかったか、エミリ。それと比べりゃ、お前の罪なんて軽いもんだ」
だから、これ以上自分を責めないでほしい。エミリの苦しそうな表情など、見たくもなかった。
自分自身の過去と彼女とを比べることで、幾分か罪の意識も軽くなるのでは。それに少し期待し、エミリの顔を覗き込む。
しかし、和らぐどころか、大粒の涙を流すエミリの辛そうな表情がそこにあった。