Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
どんな夢を見たのか、と問われれば、正直答えづらい。
怖いと感じるようなものであったことに変わりはなく、そこは素直に伝えれば良いのだろう。ただ、内容がとてつもなく後ろめたいものであるため、誤魔化したい気持ちの方が大きいのだ。
「……えっと」
良い回答が見つからず口籠もる。誤魔化そうとしても、リヴァイには効かないだろう。また、エミリ自身も嘘をつくのが苦手であるため、誤魔化す努力も水の泡となりそうだ。
「あのクソ野郎が、夢にでも出てきたか」
「……っ」
リヴァイの言う"あのクソ野郎"とは、確実にオドのことで間違いないだろう。名前すらも口にしたく無いらしく、目で「聞かなくてもわかるだろう」と訴えてくる。
「大方、あいつに言われたことでも思い出してグズってたんだろう」
「…………グズってって言い方、なんかやめてください……」
確かに夢の中でも何度もオドに追い詰められ、泣き叫んではいたが、リヴァイの言い方だと子ども扱い同然で、少し不満に感じた。
「俺にしちゃあ、お前は十分ガキだから安心しろ」
「全っ然、安心とかできません。それ……」
頬を膨らませて抗議するエミリは、目を覚ました直後と比べて表情も幾分か柔らかい。
文句を垂れるほどに余裕があるのだと、リヴァイは少し安堵した。
「…………離れないんです。彼の言葉が、頭から……」
ゆっくりと状態を起こしながら、ポツリポツリと話し出すエミリ。その声は微かに震え、また、様々な葛藤や戸惑いがはっきりと表れていた。
「わたし、は……取り返しのつかないことをっ、して……」
胸から強い罪悪感が押し上げ、喉から声が出ない。代わりに零れたのは、小さな涙一粒。
人を殺めた。
例え、ルルを助けるためだったとは言え、その事実に変わりはない。言い訳など、通用しないのだ。
(……もし、ルルがあの時……息を吹き返さなかったら……)
そこまで考えて、エミリは弾けたように顔を上げる。
「兵長!! ルルは……ルルは、どうなったんですか!?」
悪夢に気を取られ頭の中から離れていたが、ルルの安否を把握できていなかったことに気づく。そして、どれくらい自分が眠っていたのかすらも、わかっていなかった。