Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「……馬鹿が」
小さくそう吐き捨て、自身の手をエミリの後頭部へ持って行く。そして、勢いよく彼女へ手刀を入れた。
「ッッ!?」
ドスッと鈍い音が響き渡ると同時に、エミリの体には痛覚が走る。そして、そのまま流れるようにリヴァイに体を預け、動かなくなった。
リヴァイの腕の中にあるのは、意識を失い目を閉じては規則正しい寝息を立てる想い人。
頬にかかった横髪を優しく払い、切なげに目を細めた。
「俺を気にする余裕もねぇ癖に強がるな……」
エミリの瞳に込められていた不安の塊。それは、リヴァイに対する罪悪感が、そこに凝縮されていた。
ルルが気になるということも、責任を放棄することもできないという主張に嘘はない。
しかし、それ以上に今、エミリが何よりも気にかけていたもののは……
助けを求めていた自分の元へ駆けつけてくれた人
涙を流す自分を抱き締めてくれた人
身を呈して自分を守ってくれた人
同じようにルルや子どもたちを気にかけてくれた人
リヴァイに対する混沌とした想いが、何よりも強く、それが不安となって瞳に全て表れていた。
「なんでお前は、いつも他人ばかり気にかける」
心身共にボロボロである今の状態では、他人を気遣う余裕すらないだろうに。どこまでもお人好しで、責任感の強いエミリに呆れると同時に、そんな姿が愛おしくてたまらない。
「まあ、それがお前の良い所か……」
無理やり眠らせたはずなのに、エミリの寝顔はとても安らかだ。
リヴァイがそばに居る安心からだろうか。そんな都合の良いことを考えながら、やはり疲れていたのだろうと彼女の頭を優しく撫で続ける。
「今は、ゆっくり休め」
エミリは、十分に頑張った。確かに多くを巻き込んだが、もう彼女が無理をする必要はない。
安心したように眠るエミリの顔を眺めるリヴァイの耳に入る2頭の馬の足音。それが、フィデリオたちの到着を知らせていた。