Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
揺らぐことの無いエミリの眼差しは、見ていて何故か安心感があった。それは、彼女の絶対的な強さでもあるからだろう。
エルヴィンは、迷いなく言い切ったエミリの返答に満足気に口角を上げる。
「なら、それでいい」
そうして、優しく彼女の頭を撫でてやる。
本当は、もっと言いたいことがたくさんある。しかしそれは全部、先にエミリと合流したハンジがやってくれたであろうことは、簡単に予想が着いた。
「帰ったら、始末書を覚悟しておきなさい」
「うっ……」
しかし、いくらエミリでも今回のことをお咎めなしで見逃すわけにはいかないのだ。
たくさん心配を掛けさせたのだから、それ相応の罰を与えなくてはならない。
苦い表情を見せるエミリの頭をポンポンと優しく2回叩き、エルヴィンは今度こそナイルの方へ歩いて行った。
「行くぞ、エミリ」
エルヴィンとエミリの一連のやり取りを後ろで見ていたリヴァイが、片足を庇うようにして地上へ戻るために歩き出す。
「あっ……兵長、掴まってください!!」
銃弾で2つも足に穴を空けられたのだ。体に走る痛みは尋常ではないだろう。
慌ててリヴァイの隣に着き、彼の片腕を自身の肩に回して体を支えながらゆっくりと歩を進める。
「チッ……」
エミリに支えられるのが不満なのか、苛立ちを含んだ舌打ちが耳元へダイレクトに響く。
それを聞けば、エミリの中に再び募るのは彼に対する罪悪感である。
「……兵長、すみません。私を庇ったせいで……」
もっと警戒しておくべきだったあの状況で、怒りで冷静さを失っていたエミリの落ち度。
人類の希望と謳われている彼の足を駄目にしてしまったとあれば、壁外調査にも大きく響く。
巻き込んだ上に怪我も負わせ、更には調査兵団の未来や命にまで影響を及ぼしてしまった。その事実が、エミリを追い立てる。
(…………私が、何とかしなきゃ……)
この責任は、自分が持たなくてはならない。こんなにもたくさん迷惑をかけてしまったのだ。尻拭いまでしっかりとやらなくては……これでは、ただのお荷物である。
そう、自分を責め立てていた。