Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
リヴァイと絡んでいたエミリの視線がゆっくりと下降し、腕の中で眠るルルを捉えた。
「…………っ、た……」
「エミリ?」
ポソリと何か呟くエミリの声がはっきりと聞き取れず、リヴァイは彼女の顔を覗き込む。
そこにあったのは、微かな光が宿ったエミリの瞳。目の縁に溜まる涙は、悲しみとは違う意味が込められた雫が、頬を伝っていた。
「……いま……うごい、た」
今度こそしっかりと耳に入ったその言葉に、目を見開く。
ルルの心臓は、もう止まっている。動くことなどあるはずがない。ということは……
「…………ルル……? ルル!!」
有り得ない気持ちと信じたい思いが混沌し、再び正常な判断がつかなくなる。
そんな中、都合の良い方を選んでしまうのは、おそらく人間の欲深さと悲しみと向き合いたくないという逃げから来ているのかもしれない。
それでも信じたかった。
この世界にも、奇跡があるのだということを──
「……………………おね……ちゃ…………」
掠れた声は、とても小さなものなのにエミリの鼓膜をしっかりと震わせた。
頬に手を添えてルルの様子を確認すれば、うっすらと開かれている瞼が目に入る。
熱くなる自分の目頭。再び視界が滲む中、エミリは咄嗟に自分の師へと首を振った。
「ファティマ先生!! ルルの、ルルの意識が……!!」
大きく響くエミリの声に反応し、ファティマはルルを抱える教え子の元へ駆け寄る。
エミリからルルを自分の腕の中へ移し、様子を確認しては立ち上がった。
「先生……」
「この子は、私が何とかするから。貴女は休んでいなさい」
「でも、」
「いいから!」
後を着いていこうとするエミリを静止し、ファティマはルルを抱えて地上へと戻って行った。
少し冷えた頭で思うのは、自分が出る幕ではないということ。
今回の行動に関し、ファティマにも思うことはあるだろう。何しろ使用許可が出ていない状態で爆薬や睡眠薬を使用したからだ。
今、エミリが隣についていては、ファティマも冷静ではいられなくなるかもしれない。きっと彼女の心の中は、苛立ちや不満が渦巻いているだろうから。