Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
ドクン……!
一際大きく脈打つ心臓。それを最後に体に起きた異変は治まった。
(……な、に……今の?)
この現象は、さっきも起きた。体の痺れが解かれたあの瞬間のことである。
心臓が一番強く、大きく鼓動した直後に動けるようになったのだ。
自分の体に何が起きているのか、言い様のない不安に襲われる。そして、異変が起きる直前に聞こえたあの声は、一体何だったのだろうか。
必死に状況を整理しようにも、それができる程の冷静さが、今のエミリには無かった。
「────っ! …………エミリッ!!」
リヴァイに揺さぶられ、ようやく声を掛けられていることに気づく。
ハッとして顔を上げれば、険しい表情で自分を見つめるリヴァイの顔が目の前にあった。
「…………へ、ちょう……」
「様子がおかしかったが……大丈夫か」
「……あっ、はい……へいき、です」
肩で呼吸を繰り返したまま、途切れ途切れにリヴァイの問いに答えていく。
未だに心臓の音がやけにはっきりと耳に入るのは、エミリの中に不安が残っている証拠だった。
胸を抑えながら、ただ気持ちが落ち着くのを待つ。
「エミリ、ここを出る。立てるか」
差し出されるリヴァイの手。それを掴むため、ルルを抱えている腕とは反対側の方を前に出す。
しかし、彼の手を掴もうとする寸前でピタリと手を止めた。
「エミリ……?」
急に動きを止めたエミリの様子に再びリヴァイが眉を顰め、固まった状態の彼女を凝視する。
エミリはと言うと、手を前へ伸ばしたまま微動だにしない。まるで石となって固まってしまったようだった。
視線は、どこか一点を捉えたままぼーっとしているだけ。一体、何が彼女をそうさせているのだろう。
エミリが口を開いてくれない限り、その真相はわからない。
「おい、エミリ。どうした」
もう一度、肩に手を置いて揺さぶる。そしてようやく、一つ瞬きという動きを見せた。