Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
"強い想いとは、誰も見ることのできない未来へ導く……究極の魔法"
この言葉を知ったのはいつだったか。
……それは、大好きな魔法の物語を読んでいた頃に出会ったものだ。
魔法の世界でも、"奇跡"とは特別なもの。どれだけ異質な能力を持っていたとしたも、その世界の住人にとって、それは特別と言えるものではない。
そう、どこの世界も同じなのだ。
奇跡は、奇跡でしかないということである。
違うのは、それが人の手によって作られた未来であるか、そうでないかということ。
作られるということは、必ずその結末が決まっている。登場人物を生かすも殺すも、それを作った作者次第なのだ。
(……誰か……)
この運命を定める者がいるのであれば、
(ルルを、助けて……)
一つの奇跡を、どうか……
(……やっと、自由になれるの)
生まれた時から、天井に覆われた冷たく暗い世界でルルは生きてきた。例え檻に入っていなくとも、ルルにとっては閉じ込められていたことと変わらないだろう。
だけど、もうそうではない。
ルルは、もう自由なのだ。だから……
(もっと、幸せになってほしい……)
いま、エミリが望むことは、
(もっと、笑ってほしい……!)
ただ、一つ……
「………………生きて、ルル……」
ポタリと一粒、ルルの頬に落ちるのは、目の縁から溢れたエミリの涙。
そこには、未来を生きてほしいと願うエミリの、ルルに対する想いが凝縮されていた。
――――ナラバ其ノ願ヒ、叶エル代ワリニ試ソウ。汝ヲ……
突然、どこからか聞こえた声に、エミリは涙を止めた。その直後、体に異変が起きる。
「うっ……」
早まる鼓動と上昇する体温、体に流れる血液でも逆流しているのだろうか。
そう思えるほど、体は異常をきたしている。
「おい、エミリ? どうした?」
荒くなっていく呼吸と大量に流れる汗。隣で付き添っているリヴァイも、エミリの異変を感じ表情を変える。
「……はっ、……うっ……」
握り潰されてでもいるのだろうかと感じるほどに胸は苦しく、喋ることすらもままならない。ルルを抱えながら蹲り、ただ身体が正常に戻るまで待つことしかできなかった。