Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
ルルが死んだ。
助けられなかった。
約束を守ることができなかった。
その現実と向き合うことが、なかなかできずにただ戻って来てと喚くことしかできない。
エミリは、そこで改めて自分の弱さと対面した気がした。
調査兵として生き、仲間の死を何度も乗り越えてきたというのに、何故、今はただこうして泣き言を繰り返すことしかできないのだろうか。
(…………ああ……この感覚、知ってる)
幼い頃に感じたこの喪失感。
一つは、幼馴染で初恋の相手であるファウストの死。
もう一つは、母であるカルラの死。
あの時、二人の死を受け入れるまでとても長い時間が掛かったのを覚えている。
わかっているのに、気を抜けば隣で笑っている大切な人の姿が、エミリの心を掻き乱していた。
それと同じ感覚がエミリを襲う。
現実を受け入れようとしない自分が、再び心の中に居座ろうとしていた。
(…………ルル……)
お日様を見ることができた。
実現した夢を言葉にしたルルの顔には、幸せそうな笑顔があった。
(……夢なんかにさせちゃダメ)
陽の下で生きることが、ルルにとっても当たり前の日常となってほしい。
(ここで、死んじゃ……ダメ)
ルルが見る本当の夢は、これからなのだ。
エミリが薬剤師になることを夢見て、それを叶えるために努力していることと同じように、ルルにもそのような未来を生きる資格がある。
「…………、……きて……」
込み上げる涙を無理やり止め、声を絞り出す。
「……もどって、きて」
視界に映るルルの顔は、目の縁に溜まる涙でぼやけてしまっているせいではっきりとは見えない。
雫を落とさぬよう瞬きを我慢し、ほぼ確実に叶うことのない祈りを、ただ言葉にしていく。
「戻って来て……」
今度は一緒に、お星様とお月様を見よう。
「ルル……!!」
散った花びらは元には戻らない。それは、人の命も同じである。
エミリが見せる姿は、きっと、滑稽で無様なものなのかもしれない。それでも……
「ルル! お願い……戻って来てぇ!!」
奇跡を願う他なかった。