Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
すんなりと折り曲がる指、ふらついていた体は安定し、幾分か軽くなったようにも感じる。
どうやら、ファティマの薬はしっかりと役目を果たしているようだ。
「……助かった」
ようやく命令通りに動いた体に開放感すら覚える。
相変わらず片足は痛むが、構うことなくリヴァイは立ち上がった。
「リヴァイ、ちょっといいか」
ようやくエミリの元へ行ける。そう思って足を動かした時、エルヴィンに声をかけられ足を止めざるを得なかった。
「……なんだ?」
「あれは、まさか……」
エルヴィンが捉えているものは、心臓から真っ赤な鮮血を流し倒れている亡骸。エミリがトドメを刺したあの研究員だった。
憲兵たちは、ナイルの指示のもとその遺体回収を行っている最中である。
その光景を眺めるエルヴィンの瞳は、どこか悲しげだった。それは、彼の中で誰があの研究員を殺したのか目星がついているからだろう。
「お前が考えている通りだ」
「……そうか」
遠回しなリヴァイの表現から全てを察したエルヴィンは、それ以上何も聞くことは無かった。はっきりと断言したくないリヴァイの気持ちも理解できたからだ。
エルヴィンの気遣いをそのまま受け取り、リヴァイはエミリの元へ歩み寄り、彼女の隣へ腰を下ろした。そんなリヴァイが耳にしたのは、
「……ごめ、……ルル…………っめん、ね……ごめ、ん……」
もう二度と動くことの無いルルに向け、何度も何度も「ごめんね」と繰り返すエミリの弱々しい声だった。
「……エミリ」
そっと彼女の背中に手を添え、名を呼ぶ。それでもエミリが、顔を上げることも口を閉じることも無かった。
「……ルルを、お前の手で弔ってやれ」
いつまでもこの場所で泣いている訳にはいかない。もう戻って来ることがないのであれば、せめてちゃんと火葬してあげるべきだ。
そして、エミリ自身もそこでケジメをつけなくてはならない。
「エミリ、立てるか」
大粒の涙を流し続けるエミリの体を支え、立ち上がろうとするが、彼女は全く動く気配がない。
さて、どうするか……とエミリを動かす方法を考える。