Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
足腰に力を入れては歩くために立ち上がろうにも、やはり薬の効果がまだ残っているのかそれができない。
おまけに片足は、2発の銃弾によって撃ち抜かれているため、少し動く度に痛みが走る。
「クソッ……」
早くエミリの元へ行きたいというのに、全く動かない体に苛立ちが募る一方だった。
「これを飲みなさい」
突然、目の前に差し出された小さな丸い物体にギョッとし、リヴァイは勢いよく顔を上げた。映ったのは、険しい表情を浮かべたファティマの姿だった。
「……あんたも来てたのか」
「当たり前でしょう。まさか、教え子たちの間でこんなことになっているとは、思わなかったけれどね……」
溜息混じりに吐き出された言葉には、ファティマの複雑な心境がはっきりと現れていた。
彼女の気持ちも理解できる。
一人の教え子は犯罪に手を染め、もう一人はそれを止めるべく手を汚すことになってしまったのだから。
「即効性の解毒剤だから、あなたを縛る効果もすぐに無くなるはずよ」
「…………。」
「私の薬も不安かしら?」
じっとファティマの手のひらに乗せられている小さな粒を凝視したまま、考えを巡らすリヴァイの様子に内容を察した。
狂人と断言しても過言ではないほど、オドは人間性に欠けていた。そんな彼の先生であるファティマをも疑ってしまうのは、自然の摂理に等しい。
「……いや、俺はあんたを信用している」
信頼とまではいかないかもしれないが、それでもファティマが自分の職業に対し、どれだけ真剣に向き合っているか。それは、エミリを通して感じてはいる。
そして今も、ファティマの瞳に漂っているのは悲しみや後悔から表れる罪悪感。
彼女を信用する理由は、きっとそれだけで事足りる。
「いただくぞ」
薬によって震える指でそれを摘み、そのまま口へ運んだ。ゴクリと喉が鳴った後、体の中へ粒が流れ込む感覚を感じ、暫く効果が出るまで待つ。
早くエミリの元へ駆けつけたいという衝動に駆られるも、それを我慢し耐えること約1分を過ぎたところで異変を感じた。