第12章 上司と部下の張り合い
裕Side
由架と出掛けた翌日から俺は仕事モードへと無理矢理切り替えた。
『本部長から日向さんを奪うことにします。』
あの言葉が俺の脳裏から離れない。
そしてそれを忘れたいかのように仕事をする日々。
正直、このタイミングで仕事が忙しくなってよかったなとも思った。
忘れられるから。
由架と過ごせないのは嫌だが、取られるのはもっと嫌だ。
けれど、いざ仕事をしていると残業のせいでよくわからない距離ができていた。
家に帰ってもご飯を共にすることはないし、朝もバラバラ。
距離感ができたなって思ってる。
そして今日も彼女より、仕事を優先した。
今日は一緒に帰れたはずだ。
でも、区切りよく、仕事を終わらせたかった。
その自分の責任感に勝てなかった。
そんな自分の後悔を心に秘めながら、俺は家路につく。
「ただいま…」
そう言ったところで何も返ってこないってわかってた。
そんなことわかってたけど、寂しかった。
すると後ろからガチャリと音がする。
「ただいま。」
あの扉の開けた音は由架だった。
けれど俺より先に帰ったはずなのに、何で俺の方が帰りが早いんだろうか?
疑問が浮かぶ。
けれどなぜか聞く勇気がない。
べつにやましいことなんてないはずなのに。
けれど、頑張って、勇気を振り絞って、聞いた。
「遅かったんだな…」
すると彼女は顔をパッと明るくして
「今日はご飯一人で食べてから帰ってきたの。ここ最近まともなご飯食べれてなかったから。」
といった。
俺はその言葉に安心してか、そのまま彼女を抱き締めていた。