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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


智side


澤がその苦しい胸中を涙ながらに吐露するのを、僕は驚きと落胆とが入り混じった、複雑な心境で聞いていた。

母様と松本の間に何か事情があったのは、以前澤がさりげなく語った話からも、容易に想像する事が出来た。

てもまさか…
その澤自身があの男と…

僕は大人達の色と情に塗れた慾の穢らわしさに、吐き気すら感じていた。


こんなことのために父様と母様は命を奪われ、幼かった僕は全てを奪われなくてはならなかったのか…


幼い僕が、どんな想いであの狭くて、身動ぐことすら出来ないような時計の中で、じっと息を潜めていたのか…

どれ程の恐怖を味わったか…


静かに沸き起こる怒りにも似た感情が、自然と僕の指先を震わせた。


やはり僕が殺すべきだった。

この手で…僕のこの手で
僕を底知れぬ真っ暗な闇へと突き落としたあの男を殺してやりたかった…

それも今となっては叶わないことなのだけれど…


「あの晩、大野様のお屋敷から戻られた旦那様は、酷く興奮したご様子で、直様私を書斎に呼びつけると、私の目の前で赤黒く染まったホワイトシャツを脱ぎ捨て、それを捨てるようにと命じられました。私は一瞬で何が起きたのかを悟りました。旦那様は自らの手を、己の慾望の為に汚されたんだと…」

その時になって漸く、旦那様の暴挙を止められなかったことを後悔した、と…


「許しておくれ、…智…。いえ、智坊っちゃま…。澤があの時気付いていれば…、旦那様をお止めしていれば、貴方様は今でも御両親の愛に包まれ、何不自由ない生活をしていられた筈なのに…」

縄で括られた手で僕の手を掴み、涙ながらに謝罪の言葉を繰り返す澤に、僕はどう言葉をかければ良いのか分からなかった。


だってそうでしょ…?

今更澤がどれだけ心から詫びた所で、父様も母様も帰っては来ないのだから…

僕の幸せだった時間は、二度と戻っては来ないのだから…
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