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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒



激情に流され、声を荒げると

「兄さん、聞こう…?おれたちが知らない事をなんだから…」

弟は、漸く話し出したかと思ったら昔話を始めた澤に苛立ちを強めた俺を、なんとか取り成そうと、流れる涙を拭き、背広の袖を引いた。


俺は着物の襟を掴んでいた手を解かれ、それを弟の両手が包み込む。



戸惑い…深く傷付いているはずなのに、どうしてこんなにも冷静でいられるんだ?


頼りないと思っていた弟が…

まるで年長者のような落ち着きを持っていたことに驚き、見失いかけていた己が戻りつつあるのを感じた。



静けさを取り戻した部屋の中…


「…夜会からお戻りになられた旦那様は、大野伯爵の奥方様にお声を掛けただけなのに…それを窘められたと…。幼い頃から好いていた女(ひと)なのにと…」

「父様が…智の母様に、想いを寄せてた…?」

「でも、叶うことなく…あのお方は大野家へと嫁がれました。けれど…旦那様は、それは大野伯爵様の横暴だったと…甘んじてそれを堪えたのに、声を掛けることさえも咎められたと…嵐のように怒り狂って……」

あの男が智の親を手に掛けたというのは解らなくもなかったが…

「ちょっと待て。どういうことなんだ…?伯爵家に大野という名は存在しない。」

「それは…さっきも話した通り、父様がお二人を殺めてしまったから…」

「まさか、爵位は返上…ということか…?」

「そう、そして智は…全てを失ったんだ…」


あの男が…そんなことを……


「…父様は、優しい人だった…。母様を大切にして、いつも…二人共笑ってた…」

それまで黙っていた智までもが、遠い昔を思い出している様子だった。


「左様でございます…、でもそれが旦那様はお気に召さなかった…」

「だから殺したっていうのか」



好いた女を手に入れようと…あの男は



「…酷い、酷いよ……、智の母様は何も悪いことなんてしてないのに…」

心優しい弟は…泣いていた。


「…夜会の次の日、旦那様は大野伯爵様のお屋敷に呼ばれて…、あの時、澤が身を呈してでもお止めしておけば…あの可愛らしかった坊ちゃんが、辛い思いをなさることもなかったのに…」



在りし日に犯した罪……


その代償は…誰が負わなければならないのか


お前は…考えなかったのか……
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